原料気体中の炭素が金属ナノ粒子触媒によってカーボンナノチューブ(CNT)に変換される機構の解明を目指し、多層CNT成長中における金属ナノ粒子触媒と多層CNTとの界面構造を環境制御型透過電子顕微鏡(ETEM)により調べた。成長中の多層CNTと金属ナノ粒子触媒との界面には傾きがあり、多層CNTの各層は金属ナノ粒子表面のステップにくっついていることを示している。また、多層CNT成長中に金属ナノ粒子触媒は炭化物になっており、このことは原料ガスに含まれる炭素原子が一旦金属ナノ粒子触媒に取り込まれ、多層CNTと金属ナノ粒子触媒との界面に供給されることで多層CNTが成長していることを示している。元々の金属ナノ粒子として鉄を用いた場合は、CNT成長中にナノ粒子全体が炭化鉄になる。一方、コバルトを用いた場合にはナノ粒子は多結晶になる。ナノ粒子の表面が炭化コバルト、内部が純コバルトの混合構造になっていると考えられる(論文投稿中)。いずれにせよ、ナノ粒子の表面、すなわち多層CNTとの界面付近は炭化物であり、炭化物が多層CNT成長において活性な触媒となっていることを示している。 多層CNTと金属ナノ粒子触媒との界面構造が変化することで、成長中の多層CNTに曲がりやグラファイト層間隔の乱れといった欠陥が導入されることを、ETEMによるCNT成長その場観察から明らかにした(発表論文:Carbon 70 (2014) 266)。また、多層CNT成長中に金属ナノ粒子触媒が大きくその形状を変化させた結果、多層CNTの直径や層数が変化する様子をその場観察することに成功した。CNTは通常多くの欠陥構造を含むことが知られており、応用上問題となっている。本研究により、様々な欠陥がCNTに導入される機構が明らかになり、欠陥制御に繋がる知見を得ることができた。
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