研究課題/領域番号 |
24710121
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
冨永 亜希 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (50590551)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 炭素無機材料創製学 |
研究概要 |
今回の科研費により,ダイヤモンド粉末(PDC)を作製するための真空チャンバーを購入し,設置が出来た.しかしながら,予算減額の都合上,温度可変システム付きの基板フォルダとガス設備に関する物品を購入することが出来なかった.そのため,サンプルは薄膜サンプル用のチャンバーを用いて膜を作製し,膜から粉末化している.こうして出来た粉末を,放射光X線回折(SR-XRD)で測定したところ,Diamond-111,220のピークが出現し,ダイヤモンドの存在を確認することが出来た.また,ガス圧力の変化(0-159.6 Pa)により粒径が1.8 - 2.6 nmの間で平均粒径の変化が起こったことがScherrer の式から見積もられた.しかしながら,透過型電子顕微鏡(TEM)の測定に関しては,試みたがカーボンそのものの電子線回折像を得ることが出来ていない.XRDでは観察出来るため,理由も含めて考察し,引き続き,観察中である. 本実験では,Mnによる磁性付与を狙い実験をしてきたが,Mnを練りこんだターゲット材を作製することが不可能であることが研究を進める上でわかってきた.磁性付与が期待できるCrのドーピングにシフトし,研究をしている.Crでは2価で磁性が発現する理論予測があるためである.Crをドーピングしたターゲットは,作製が可能で既に得ている.ここからアークプラズマ銃でサンプルを作ることも可能であった.ドープされたCrの価数を観察するために,X線吸収端近傍構造(XANES)の測定を申請,採択され今年度予定している. 磁気測定に関しては,試料振動型磁力計(VSM)と超伝導量子干渉素子(SQUID)測定を検討していたが,VSMは測定の手筈が整わず,SQUIDに関しては液体Heが入手困難なことより,現在までに測定が出来ていない.しかしながら,準備を行なっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
真空チャンバーにヒーターシステムとガス配管を設置出来なかったため,ダイヤモンド薄膜作製時に好条件だった温度とガス雰囲気が新規導入のチャンバーでは実現出来ていないことで薄膜チャンバーを用いてサンプルを作製している.この薄膜から粉末を作製する方法を見出すことに時間を要した.また,新規チャンバーは量産化に向けての工夫の施されたチャンバーであったため,作製の効率化の点からも研究の進捗を少々滞らせている.言い換えればサンプル作製に3~4倍の時間を費やしている. また,Mnドープのターゲットを作製できないことが判明し,磁化が発現可能な元素を検索し,代替材料のCrを見つけ出してターゲットを作製することにも時間がかかった. 磁気測定に関しては利用予定のVSM装置が,粉末では測定出来ないことが判明し,粉末での測定方の開発もしくは粉末で測定できる装置の検索に時間がかかっている.SQUIDでの磁気測定に関しても液体Heが入手困難な観点から測定を行えないでいる.以上の2点から磁気測定を行えないのでサンプルの特性を見ることが出来ないできた. 放射光や中性子の測定は申請から測定までに約1-2年の月日を要しているためこの点でも実験日程やはり当初の予定からがやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
結果より同軸型アーク銃を用いれば,真空下の作製条件でもダイヤモンドが成長しPDCを作製することが可能と判ったので,温度可変基板フォルダとガスラインの配備されていない新規チャンバーを改良しこれを用いてPDCを作製し今後はスピードアップを測りたい. CrドーピングでのPDCの磁性付与での成果を主軸として挙げていく予定である.しかしながら,MnドーピングでのPDCの磁性付与に関しても作製法から検討し,模索して行きたい.その時のダイヤモンド結晶存在とドーピング元素の存在はSR-XRD,XPS,XANESの各放射光測定により同定する.また,SR-XRD結果より,結晶粒径変化も導き出す. 磁気測定に関しては,本法のサンプルに適合した共同利用開放がなされているVSMやSQUIDを探して測定につなげる.それに加えて装置の工夫により粉末測定が可能な状況を導き出していくことにも務める.これに加え,X線磁気円二色性(XMCD)測定も申請し,スピン磁気モーメントおよび軌道磁気モーメントを見積り,磁化の発現を評価する.中性子散乱法用いた磁化率の測定のチャンスも伺っていく予定である.XMCDや中性子散乱は磁化発生の可能性も見出すことにつながる.言い換えればVSMやSQUIDでは検出出来ない磁化の可能性を検出できるので測定可能な環境を整える. 継続してTEM測定を行いダイヤモンド結晶の像観察にチャレンジする予定としている.結晶粒径や存在頻度を確認していく.最近,キャンパス内のTEM装置を使うことが出来る体制になったので測定出来る環境になったので,勢力的に使って結果を出して行きたい. 予定している通り,XRDおよび電子線回折の結果からPDC中のMnの存在サイトの同定をする.決定した格子モデルを用いて第一原理計算ソフト wien2k を用いて構造からXANES等の分光測定予測を逆算したもので検証も行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
主には,サンプル作製のための同軸型アーク銃のCrドープグラファイトターゲット料金,実験器具(ビーカーやろ紙,手袋等),消耗する真空部品(ガスケットや凹リング等)といった消耗品費(物品費にあたる)に使用していく.ここに55万円を当てている.その主たるところは,Crドープのターゲットと同軸型アーク銃の碍子である.ターゲットに関しては,少なくとも3種のCrのドープ量変化させたサンプルを各種作製するため,おおよそ5万円で6本程度の計30万円かかる.これにアーク銃専用の碍子(単価5万円)が2個は必要となるので,先に述べたターゲットとで物品費の費用のほとんどを占める. また,僅かではあるが測定の際に必要な人件費やその他として測定料金をそれぞれ計上している.それぞれ,5万円と9万円(1日の放射光施設の学術機関の使用料金にあたる)を使用していく予定である.人件費のメインは謝金で,新たな解析を行う際に専門家の方に解析のアドバイスを受けた際にお支払いする予定としてある. VSM,SQUID,XMCD,中性子散乱,TEM等の研究のキーになる磁気や磁化率の測定,形態評価を行なっていく共同利用装置の使用料や電気代,測定場所に向かう際の交通費,宿泊代を含めた旅費などが支出として予測されるので,予算不十分ではあるが,他の諸経費からの支出を検討することや,これから自らの手で外部資金を獲得し研究遂行に当てていく.同様に論文投稿にかかる諸経費や学会参加,発表に関わる諸経費が全く計上できない状況であるが,これも外部資金の獲得により補って活動していく. H24年度1,146円の残金が生じた,これは,購入希望試薬の単価が3,000円程度であるため,次年度に支給される額と合わせての購入を希望するためである.
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