研究課題/領域番号 |
24710131
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
横田 幸恵 独立行政法人理化学研究所, 田中メタマテリアル研究室, 特別研究員 (70590678)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ナノ材料 / 金属ナノ構造 |
研究概要 |
金属ナノ構造と光との相互作用による新たな光学特性を明らかにするためには、構造の形状を自在に制御することが重要である。特に可視から近赤外領域の光により金属ナノ構造の局在プラズモン共鳴を誘起するためには、ナノメートルサイズで構造の形状を制御するだけでなく、サイズや配列も制御することも必要となる。そこで本年度では、ナノ構造を精緻に作製することが可能な電子線リソグラフィ技術を用いて、湾曲させた金ナノロッド周期構造の作製を検討した。弧長サイズが150 nmから900nmまで様々なサイズで湾曲金ナノロッド構造を作製することに成功した。単純なロッドや円だけではなく、従来では作製が困難であった任意の曲線形状を有する金ナノ周期構造の作製手法を確立した。 また、構造形状を制御した金属ナノ構造を用いて新たな光学素子を構築するためには、構造を大面積に作製することが求められる。本年度では電子線リソグラフィ・リフトオフ技術を用いて、湾曲形状を保持しつつ1cm四方に湾曲金ナノロッド構造を作製することに成功した。その作製手法により、複雑な形状や数ナノメートルで構造同士を近接させた(ナノギャップ)構造でも、単純なナノロッド構造を大面積に高速描画する手法と同程度の時間で作製することが可能となった。 作製した湾曲金ナノロッド構造は分光光度計を用いて分光特性を計測し、構造形状による偏光依存性について検討した。様々な構造サイズや湾曲形状を有する湾曲金ナノロッド構造の分光計測から、湾曲金ナノロッド構造は金ナノロッド構造とは異なる偏光特性を示し、弧長サイズに依存したプラズモン共鳴ピークを示すことを明らかにした。さらに、湾曲金ナノロッド構造と金ナノロッド構造というように形状の異なる2種類の構造間距離を変化させ、構造形状と構造間距離による局在プラズモン共鳴への影響も検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
電子線リソグラフィ・リフトオフ技術を用いて金ナノ周期構造を大面積かつ高速に作製する手法を検討し、任意のサイズで湾曲形状を有する金ナノ周期構造を作製するだけでなく、ナノギャップを有する金ナノ湾曲構造を2次元上に大面積かつ周期的に作製する手法を確立した。さらに単一形状の構造大面積化だけでなく、構造形状の異なる金ナノ周期構造同士でも同様に自在に配置することに成功した。 種々の曲線を有する金ナノ周期構造を作製し、それらの光学特性から湾曲構造特有のプラズモン共鳴ピークはサイズ依存及び偏光依存を示すことを明らかにした。得られた実験結果から、湾曲させた金ナノ周期構造でも任意の波長にプラズモン共鳴ピークを有する金ナノ構造を作製することを可能にした。また、湾曲金ナノロッド構造と金ナノロッド構造を近接させて配置した金ナノ周期構造を作製して分光計測することにより、湾曲形状によるプラズモン共鳴だけでなく、異種構造によるプラズモン共鳴の構造間距離依存を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から、構造形状とともに構造配置により金ナノ構造のプラズモン共鳴が大きく影響されることを明らかにした。そこで次年度は、複雑な形状を有する同種同士の金属ナノ構造の構造配列による影響だけでなく、様々な異種形状の構造を組み合わせた金ナノ構造を用いて構造間距離によるプラズモン共鳴の影響を詳細に調べる。 これまでに作製した曲線形状を有する金ナノ周期構造を用いて、入射光角度や偏光による非線形光学現象を計測するための新たな光学系を、レーザー光源や分光器を組み合わせて構築する。得られた光学特性から、曲線形状を有する金ナノ構造の最適化を行う。 金ナノ周期構造だけでなく、銀やアルミなどの金属を用いたナノ周期構造の作製を行い、金属の種類によるプラズモン共鳴特性を比較し、最適な金属を明らかにする。 さらに、原子層堆積法や金属蒸着装置、エッチング手法を用いることにより湾曲金ナノロッドの3次元周期構造作製手法を構築し、周期による光学特性を詳細に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は任意の湾曲形状を有する金ナノ構造を大面積に作製することに成功し、研究は順調に進んだ。本年度では様々なサイズの湾曲金ナノロッド構造を作製して分光特性を詳細に検討したことにより、可視から近赤外領域まで任意のプラズモン共鳴波長を有する湾曲金ナノロッド構造を作製することが可能となった。さらに、同一形状だけでなく、異種形状を組みあせた新たな金属ナノ構造の作製に意欲的に取り組んだ。そのため、湾曲金ナノ周期構造が示す入射光角度や偏光による非線形光学現象を計測する光学系は、次年度にそれらを考慮してレーザー光源や分光器を組み合わせて構築する。 金属の種類による湾曲形状を有する金属ナノ構造のプラズモン共鳴への影響を調べるために、銀やアルミなどのスパッタリング装置に用いる金属ターゲットを購入する。 また、これまでに得られた構造形状や構造配列による金属ナノ構造のプラズモン共鳴変化についてまとめて発表することが重要であると考え、本年度は海外での発表を行わず、次年度に国際学会にて発表を行う。
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