本研究では、潰瘍性大腸炎の治療を目指して、カーボンナノホーン(CNH)による治療薬の経口投与薬物送達を検討した。今年度は、これまで検討を行ってきた、ポリエチレングリコール(PEG)やキトサン(CS)修飾を施したCNHなどに対して、治療薬を搭載し、細胞を用いた炎症抑制効果の評価を行った。 表面に酸化型官能基を有するCNHを既報に従って作製し、潰瘍性大腸炎治療薬であるプレドニゾロン(PSL)を担持、さらに、PEG修飾あるいはCS修飾を施し、PSL担持CNHを作製した。これらPSL担持CNHの炎症抑制効果は、マウスマクロファージ様細胞であるRAW264.7を用いて評価した。RAW264.7に対し、PSL担持CNHを添加し、Lipopolysaccharide(LPS)により炎症を惹起させた。炎症抑制効果は、炎症性サイトカインであるInterleukin-6(IL-6)の放出量で評価した。何も添加しないコントロール(LPS刺激のみ)と比較して、PSL担持CNHを添加した系ではいずれも、IL-6の放出が大きく抑制されており、炎症抑制効果が確認された。顕微鏡観察の結果、細胞内にCNH由来と思われる黒い物質の取り込みが認められたことから、添加されたPSL担持CNHは細胞内に取り込まれ、PSLを放出したと考えられる。 一方で、PSL非担持CNHを添加した系では、LPS刺激下、コントロールと比較して、IL-6の放出が促進されており、LPSによる炎症惹起効果がCNHにより増加するという副作用が顕著であった。この副作用は、培養液中でCNHに吸着したLPSがCNHとともに細胞内に持ち込まれたことが原因と考えられる。PSLをCNHに担持させた場合には、LPSのCNHへの吸着が妨げられたためLPSの副作用が現れにくく、CNHにより細胞内に運び込まれたPSLにより炎症抑制効果が顕著に現れたと推定される。
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