研究課題/領域番号 |
24710135
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡本 行広 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任講師 (50503918)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | CTC / マイクロ流体デバイス / プロテアーゼ / 非標識 / バイオミメティック |
研究概要 |
[研究の目的・意義]日本人の大半は悪性新生物(がん)で死亡している。このためがんによる死亡者数低減にはがんの超早期発見およびがんの術後検査が重要であることは言うまでもない。がんの超早期診断および術後検査で期待されているのが血中循環腫瘍細胞(CTC)の分離・計測である。がん患者の血中にはCTCの存在が知られおり、CTCの数および遺伝子の解析により腫瘍の部位・大きさ、抗がん剤の適切な選択が可能になると期待されている。つまり、がんの超早期発見、がんの術後経過観察が採血という低侵襲的な操作で実施可能になる。そこで、本提案では、従来法をはるかに凌ぐCTCの分離・計測法の開発を目指した。[成果の内容・意義・重要性]今年度は、当初の予定に従い、循環腫瘍細胞(circulating tumor cells: CTC)の特性評価を実施した。その結果、循環腫瘍細胞が正常細胞と比較し、プロテアーゼを過剰に発現していることを突き止め、測定により確認した。この事実は、従来の抗体抗原反応を使用せず、プロテアーゼの発現量でCTCの存在の有無を確認できる可能性を示唆し、現状では取りこぼしているCTCの分離・計測を達成できる可能性を有している。この事実を基に、CTCと血球細胞の分離原理を確定し、これをもとに生体内を模倣したマイクロ流体デバイスの作製に取り組んだ。まず初めにマイクロ流体デバイスの表面改質法を検討した結果、流体のせん断応力により剥離しないコーティング手法の開発に成功し、生体内環境を模倣したマイクロ流体デバイスの作製に成功した。また、ここで当初想定していなかった、工夫を凝らすことで、CTCの非標識検出を簡便に可能とするマイクロ流体デバイスの作製にも成功した。当初の計画以上の成果をあげられ、しかも従来法の性能をはるかに凌ぐ性能を得られる可能性のある分離・計測手法になる可能性を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
[研究の目的の達成度] 当初の計画以上の進展を見せている。先ほどの成果報告に記載のとおり、申請時に計画した実施項目・課題はすべて今年度内に完了し、順調な研究状況である。当初計画していた、CTCモデル細胞と血球細胞の差異を見出す研究は論文等の知見や医学系研究者の協力もあり、順調に進み、CTCの分離・計測に利用可能な差異を見出すことに成功した。また、この差異を利用した分離・計測を可能とするマイクロ流体デバイスの作製に関しても、せん断応力によっても剥離しない表面コーティング手法の開発に成功し、生体内を模倣するマイクロ流体デバイスの作製に成功した。そして、当初想定していなかった、アイデアがひらめき、この表面コーティングに一工夫加えることで非標識検出を可能とするマイクロ流体デバイスの作製に成功したために、当初の計画以上の進展を見せていると自己診断している。
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今後の研究の推進方策 |
[今後の研究の推進] 今後は当初の予定通りに研究を推進する予定である。具体的には次の項目を検討している。 生体内模倣環境を人為的に構築する条件の検討。昨年までは、“分けられる側の細胞”に着目したが、本年度以降は、その物性の差を認識する分離場の構築を行なう。いかに分離する細胞の物性の差を増幅できたとしても、それを単一細胞レベルで認識し、捕捉するシステム(分離場)が必要である。正常なヒトでさえ生体内では、がん細胞が生まれ、血液に漏れ出ているといわれている。しかし、がんにならないのは、生体が多量の血球細胞にまぎれたがん細胞を異物として認識・捕捉し、駆逐するためである。つまり生体を模倣できれば高分離性能が達成可能である。そこで、半導体微細加工技術によるマイクロ空間の創成(血管を模倣)およびバイオミメティックプロセスによる機能性表面(CTC認識表面)の創成を試みることで、生体内模倣環境の人為的構築を目指す。高性能分離を得るための諸条件の検討CTCの数を正確に測定するためには、分離後の純度および回収率が重要である。そのため、血球細胞のマイクロ流体デバイス表面への非特異吸着の抑制方法を検討する。加えて分離されたCTCの100%回収可能な方法を検討する。簡便なCTC同定方法の開発。現状ではCTCの同定は免疫染色方法によって実施されている。これは煩雑な手間と多大な時間を有する。そこで、本提案では、バイオミメティックプロセスにより作製された表面とCTCが接触した際、表面の色あるいは形状等の物性が変化することでCTCを同定可能とする手法を開発する。臨床診断を視野に入れた分離条件の検討 マイクロ流体デバイスはmL量の試料量の扱いは苦手である。しかしCTCの検査においては偽陰性を防止するために検体10 mLの処理が必須である。そこで、瞬時に検体10 mLを処理可能なマイクロ流体デバイスを検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初申請していた通りに研究費を使用する。ひとつにはサンプル処理量が多くなるために遠心機の購入を検討している。また、実験に使用する試薬の購入。得られた成果を公表するための出張費等を計画している
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