研究課題/領域番号 |
24710140
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 康史 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助手 (90624841)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 走査型プローブ顕微鏡 / 生細胞 / 電気化学計測 / リアルタイム計測 / 非侵襲 / ナノ電極 / ナノピペット |
研究概要 |
生細胞の界面で生じる膜輸送のメカニズムの解明は、生物学的な知見にとどまらず、ドラックデリバリーや遺伝子導入の高効率化への付与が期待できる。本研究では、ダイナミックに起こる膜輸送を、ナノ電極(半径10-100 nm)をセンサーとして、電流値の変化として捉える。電気化学測定は、化学物質の拡散現象を定量的に捉えるため、固液界面の物質輸送の評価に大変有効である。ナノ電極と電極の細胞表面でのポジショニングシステムの開発より、細胞膜界面の輸送過程の定量評価およびタイムラプスイメージングを行っている。これまでの研究で、ブタンガスを利用したカーボンナノ電極と、イオン電流を利用した電極の細胞表面でのポジショニングシステムを搭載したナノ電気化学顕微鏡(nano-SECM)を開発した。カーボンナノ電極に関しては、先端半径が10 nmから6 umほどの電極を再現性高く作成することが可能となった。イオン電流を利用したポジショニングでは、生細胞において50 nmほどの精度での位置制御が可能となった。 SECMを利用して、癌の増殖と関係の深い上皮成長因子受容体(EGFR)に関して、抗体を介して酵素を標識し、EGFRの発現状態を可視化した。さらに異なる細胞種に関して、EGFRフローサイトメトリ―と同様の発現傾向が見られた。また、細胞の形状を非接触で測定可能な走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)に関して、ピペットを微細化することで解像度を向上させ、細胞外物質を細胞内へ取り込む際に見られる80-120 nmほどの窪みを可視化することに成功した。このことから、光学顕微鏡の分解能を上回る解像度で細胞表面を可視化できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SECMにより上皮成長因子受容体(EGFR)が細胞内へ取り込まれる様子を可視化するには、EGFRを標識した酵素の位置が細胞膜の内側であるか、外側であるかを明瞭に識別する必要がある。そのため、細胞内へ取り込まれ酵素による生成物の応答が全くなくなる測定系として、細胞膜を透過しないメディエータ(フェロシアン化カリウム)と酵素(グルコースオキシダーゼ)の組み合わせを検討した。標識酵素にグルコースオキシダーゼを利用すると、電極とグルコースオキシダーゼ間で酸化還元サイクルが生じることで電流が増幅され、この増幅度合いは、電極と細胞との距離に依存している。フェロシアン化カリウムをメディエータとして利用した場合、細胞膜を透過しないメディエータは、酵素との反応性が低く、標識酵素からの応答を検出できなかった。そのため、細胞膜を透過するメディエータであるフェロセンメタノールを利用することとした。この場合には、EGFRが細胞表面にある場合と、細胞内にある場合において、明瞭に識別することができた。 エンドサイトーシスに伴う細胞表面の形状変化として、SICMによる形状測定を行った。先端開口径が20 nmほどのナノピペットを作成し、80-120 nmであるクラスリン依存型エンドサイトーシスを可視化することに成功した。また、平成25年度予定していた高速スキャンに関してもソフトやハードに工夫をほどこすことで、従来の半分のイメージング時間5min(128×128ポイント)で行うことを可能とした。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していたnanoSECMによるエンドサイトーシスの可視化に関しては、ほぼ実現することができた。しかし、細胞表面における膜タンパク質の局在化や、発現状態の変化を可視化には、空間分解能、時間分解能に関してさらなら向上が必要である。特にエンドサイトーシスに伴う形状変化に関しては、Imperial College LondonのKorchev教授らが実現した1イメージ8秒(32×32ポイント)を上回る高速走査システムの開発を行う。具体的には、プレスキャンや画像認識から細胞の形状、位置をあらかじめ予測し、測定時間を短縮する。また、EGFRをEGFにより刺激した際に、2量化することが知られているが、この変化を可視化するため、さらなる電極の微細化を行う。さらに、生じる過酸化水素の放出や、細胞内のフォスファターゼ活性の変化に関しても、1本の電極で評価を行う。このことで、細胞表面での形状だけでなく、化学物質の濃度変化をリアルタイムで測定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度計画していたピエゾステージに関して、ソフトウェアの改良や、既存の装置を工夫して利用することで、支出を大幅に抑えることができた。具体的には、プローブをアプローチさせる際に使用するZ方向のピエゾの制御に関して、応答が遅い場合に試料にプローブが衝突してしまうという問題が起こっていた。そこで、これまで一定速度で行っていたアプローチ速度について、フィードバックシグナルを反映させるPI制御を導入した。このことで、比較的応答の遅いピエゾを利用しても、試料にプローブをぶつけることなく、アプローチさせることが可能となった。また、XY方向の移動の際の待ち時間に関しても、ピエゾのチューニングを行うことで高速化を行った。 昨年度の繰り越しとなる予算では、SICMのさらなる高速化のためのピエゾシステムの開発や、SECMによるEGFRのエンドサイトーシスによる減少を捉えるための標識酵素、標識法、プローブの制御を行うプログラム、プログラムを実行するFPGAボードの選定に関してさらなる検討を行う。高速化のためのピエゾシステムとしては、Z方向の制御を行うピエゾステージ上に、ピエゾ素子を取り付け、プローブが試料表面に到達した際に、ピエゾ素子をプローブを上昇させる方向へ動かす。このシステムは、Imperial College LondonのKorchev教授らにより、すでにプロトタイプが開発されており、本研究にもこのシステムを導入する。
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