研究課題/領域番号 |
24710144
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田畑 博史 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00462705)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / FET / P(VDF-TrFE) / 強誘電体ポリマー / 圧電性 / 焦電性 / センサー |
研究概要 |
本研究は周囲の電荷状態の変化に対して敏感な応答を示す単層カーボンナノチューブ(SWNT)をチャネルに用いた電界効果型トランジスタ(FET)(SWNT-FET)と圧電性・焦電性を有するポリマー(P(VDF-TrFE))を組み合わせた圧力や光に応答する新規センサーを実現することを目的としている。平成24年度はセンサーのベース構造となるP(VDF-TrFE)ゲート絶縁膜SWNT-FETの作製とP(VDF-TrFE)膜の分極状態がSWNT-FETの電気伝導特性に影響を及ぼすことの実証に取り組んだ。 SWNT-FETを構成するSWNTチャネルには、水平に配列したアレイ状のSWNTとネットワーク状の半導体SWNT薄膜の2種類を用いた。これらのSWNTをSiO2/Si基板上に堆積し、ソース・ドレイン電極を蒸着し、バックゲート型のSWNT-FETを作製した。このFETのSWNTチャネル上部にP(VDF-TrFE)膜をスピンコートで成膜し、さらにトップゲート電極を蒸着することにより、バックゲートとトップゲートを有するダブルゲート型FETとした。 このデバイスを用いて、トップゲート電極に一時的に電圧を印加してP(VDF-TrFE)膜を分極させ、膜の残留分極方向によるSWNT-FETの電気伝導特性の変化を調べた。この際、SWNTチャネル部に吸着した水分・酸素の影響を除く必要があり、本助成金で試料加熱が可能な真空プローバーを購入し、水分・酸素の影響のない真空中あるいは窒素雰囲気下でデバイスを評価するシステムを構築した。この装置を用いた測定で、いくつかのデバイスにおいて、P(VDF-TrFE)膜の残留分極の方向に依存して、FETの伝達特性カーブの閾値がシフトすることを見出した。この結果から、P(VDF-TrFE)膜の分極状態がSWNT-FETの電気伝導特性に影響を与えるということが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の目標はP(VDF-TrFE)膜をゲート絶縁膜に持つSWNT-FETの作製プロセスを開発することであった。具体的内容は(1)ベースとなるバックゲート型SWNT-FETの作製、(2)P(VDF-TrFE)膜の成膜条件の最適化と加工、(3)分極処理条件の最適化である。 (1) 当初予定していた水平配向SWNTをチャネルとする水平配向SWNT-FET以外に半導体SWNT薄膜を用いる半導体SWNT薄膜FET作製プロセスの開発も行った。後者は技術的難易度の高い転写技術を必要としない簡易プロセスであり、高い歩留まりでデバイスを作製できるようになった。 (2) スピンコート条件(溶媒・回転数)や膜のアニール条件を検討し、均質でリーク電流の少ないP(VDF-TrFE)膜を再現性よく得られる条件を見出した。さらに、Arガスによる反応性イオンエッチングでPVDF-TrFE膜を除去・加工するプロセスの開発も行った。 (3) 150 nmの膜厚をもつP(VDF-TrFE)ゲート絶縁膜SWNT-FETに対して、様々な条件(電圧、温度)での分極処理条件の検討を行い、FETの特性変化から間接的に膜の分極状態を評価した。 以上のことから、当初の予定していた目標はおおむね達成できており、研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は作製したP(VDF-TrFE)ゲート絶縁膜SWNT-FETデバイスに対して、力(圧電)センサーおよび光(焦電)センサーの観点から特性評価を行う。センサーとして十分大きな出力を得るためには、現状よりもさらに分厚いP(VDF-TrFE)ゲート絶縁膜(数μm)が必要になる。そこで、このような厚膜のP(VDF-TrFE)を効果的に分極させるための分極法について引き続き検討を行う。具体的な方法としてエレクトレット法やコロナポーリング法などを検討する。 次に圧力および光センサーとしての特性を評価するために、P(VDF-TrFE)ゲート絶縁膜に大して、時間的に変化する微小な力の印加や、光(赤外光)照射を行い、膜の分極状態の変化に応じて変化するSWNT-FETに流れる電流をセンサー出力として計測する。そのための計測システムの構築をおこなう。また、得られた測定結果をデバイス構造設計にフィードバックし、それぞれのセンサー用途に適したデバイス構造を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度の研究費は主に、作製したデバイスの圧力・光応答特性を評価するためのシステム構築に使用する。具体的には圧力印加の為の工作部品や光照射を行うための光源・光学部品などに使用する。さらに引き続きデバイス作製を行うためのレジスト・試薬、蒸着源等の消耗品の購入にも使用する。また、得られた成果を対外的に発表するための学会参加費や研究成果投稿料にも使用する予定である。
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