研究課題/領域番号 |
24710146
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
渕脇 雄介 独立行政法人産業技術総合研究所, 健康工学研究部門, 主任研究員 (80468884)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | マイクロチップ / PCR / マイクロ流路 / 非特異吸着 / 遺伝子 |
研究概要 |
当該年度の研究の目的は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)から検知までをフィールドオンチップに完了するマイクロチップを構築するため、検知感度、正確性、操作性の課題の解決にあった。そこで、マイクロ流路の非特異吸着の抑制のため、ブロッキング剤を予め流路にプレコーティングする方法が検知感度の向上に有効であることが分かった。しかし、ブロッキング処理がないときに比べ流体の流れを制御する事が困難になってしまい、正確性の向上と操作性の向上に対して問題が発生した。又、90℃以上まで昇温する熱変性領域では、ブロッキング剤の安定性にも問題が認められた。 そこで、2つの方法で改善を行った。一つは90℃以上でも耐性を有する親水性ポリマーを用いて化学結合によりコーティング処理を行い、非特異吸着の抑制を検討した。二つ目は、PCRを行う4つの領域(アニーリング反応、伸長反応、熱変性反応、冷却)において、流体の界面張力が流動速度の遅延/促進の制御を容易にするよう検討した。 その結果、非特異吸着に改善が確認され、流路サイクル毎の流動速度のバラつきも低減できる事がわかった。これにより当該年度の目的であった、検知感度の向上、正確性の向上、操作性の向上が可能な事がわかった。 又、PCRによって増幅した遺伝子を簡便かつ正確に測定するため、流体から測定に必要な量だけを自動的に分取する機構を新たに発明した(特願2012-131147)。これにより、オンチップでの遺伝子迅速検知の自動化に向けて従来より大きく進展した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PCRと検知をフィールドオンチップに行うマイクロチップを構築し、検知感度、正確性、操作性の向上に成功した。当該目的の検知感度の向上では、親水ポリマー処理と界面張力の制御により、従来は40サイクルの流路でフィールドチップを作製した場合、流動速度のバラつきが約17%観察されたのに対し、本研究での検討により約2.3%まで低減する事に成功したことから、概ね順調に進展していると考えられる。又、流体から必要な量だけを、操作なしに自動分取する機構を発明した。一般的に、こうした技術を集積化させて遺伝子を迅速、自動検知するためのフィールドオンチップの研究開発は、複雑な外部制御や煩雑な表面処理などを組み合わせて行われている事例が殆どであり、装置が大型で高価なものが多い。これに対し本研究では、複雑な外部制御を要せず、簡易に表面処理ができ、安価、小型で、自動的に検知まで行える事がわかったため、当該分野では新規性・進歩性は高いと考えられる。 一方で、自動集積化に向けて遺伝子の抽出機構や実試料と反応試薬を適切な比率で混合する方法については検討の必要がある。実試料によって遺伝子の抽出法やその有無は異なるため、ターゲットとなる試料の種類や数、存在状態などを考慮したフィールドチップの構築の検討を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
1.表面張力とマイクロピラーを駆使した1 ステップで遺伝子検知可能な集積化 ポンプの吐出だけで簡便かつ実用的なセンシング(混合、PCR、秤量、測定)を確立させるため、混合機構の再現性確保と、試料液注入後にマイクロポンプのOn/Off操作だけでセンシング完了の実現を目指す。 2.論文化等による積極的な成果発信の促進 今年度の研究成果の公表が遅れたことから、主として論文化等による学術研究の成果を広く社会に向けて公開するようつとめ、本分野における学術的問題の解決へと広くつなげていく。 3.実試料による遺伝子の抽出や擬剤を使った評価手法の検討 ウイルスや細菌など、日常生活で簡便に検出できるようマイクロチップでの検出法においても対応する必要がある。主として、マイクロチップでの簡便な抽出法、確定診断などにおいて検知が必要な遺伝子の数・種類について検討を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、得られた研究成果に対して所属研究機関での知的財産戦略をベースに進めてきたため、本研究によって得られた研究成果の公表が遅れた。従って、外部へ成果を公表するために予定していた当該研究費の一部を次年度に使用する状況が生じた。そこで、翌年度では、今年度の成果を外部に広く公表するために、当該予算を物品費および旅費として使用する予定である。 又、1 ステップで遺伝子検知可能な集積化を達成するため混合反応用マイクロチャンバーの作製と最適化、実試料から遺伝子の抽出や擬剤での評価手法を検討するために、主として50万円以下の物品費を購入する予定である。
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