研究課題/領域番号 |
24710147
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉田 昭二 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90447227)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子エレクトロニクス |
研究概要 |
Siを電極として作製したジエチニルベンゼン(以下DEB分子)単一分子接合において、DEB分子を介して流れる電流が電極間距離に強く依存して変化することが、これまでの実験によって明らかにされていたが、メカニズムは不明であった。本年度はQuantumwise社製ソフトウェアを用いたDFT+NEGF法を使用して現象の理論的な解析を行った。 実験では、Si-DEB分子接合において電極間距離を遠ざけると分子に流れる電流が連続的に増大する現象が観測された。その現象の解析のためDEB分子接合における電子状態の計算を行った。結果、DEB分子接合における電気伝導はDEB分子のLUMO準位を介した電子電流によって担われることを確認した。さらに電極間距離を変化させ同様の計算を行ったところ、電極間距離変化によるSi-分子間の電荷移動量の変化によってLUMO準位の位置が変化し、電極間距離を遠ざけるとLUMO準位がSiのフェルミ準位に接近し電流量が増大することを明らかにした。 さらに上記の変化に加えて、電極間距離変化に対して電流値がスイッチする現象が観測されていたが、これについても同様に理論計算による解析を行った。DEB分子は両端の3重結合がSiと化学結合することで2重結合に変化し、シス型とトランス型の2つの構造を取りうる。2つの構造の安定性を電極間距離に対して計算したところ、電極間距離が近いとシス型が安定、遠いとトランス型が安定となり、その中間ではシス-トランス転移が起きうることが分かった。加えて電子状態の計算を行ったところ、トランス型はシス型に比べてHOMO-LUMOギャップが小さいこと分かり、トランス型の方がより電流を流すことを明らかにした。実際、実験では電極間距離を遠ざけると、分子接合は電流の流れやすい状態にスイッチを起こすため、シス型からトランス型への転移によって変化が起こったものと理解できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の主な成果としては、「研究業績の概要」で述べたように、これまでに得られた実験結果の理論的解釈を与えたことである。年次計画では24年度~25年度の2年間で行う予定としていたが、集中的に研究を行ったことで1年で目標を達成することに成功している。今年度得られた知見をもとに本年度以降の実験研究を円滑に進めることが可能になると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の結果から、単一分子接合の電気伝導は分子形状の僅かな形状変化の影響を強く受けることが明らかになった。この知見を元に、分子伝導の能動的な制御を可能とする新しい分子を設計し、測定により実証することが本年度の目標である。具体的には光や電場によるシス-トランス構造異性化が引き起こされるアゾベンゼン分子を構成要素とする分子を合成し、単一分子接合の作製および分子伝導測定を行う。 光や電場に依存した分子伝導の変化の測定と、理論計算による解析により、アゾベンゼン分子接合の分子スイッチとしての特性を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の大部分をQuantumwise社製分子伝導ソフトウェアの更新・保守料(56万円)に割り当てる。残りの研究費は試薬の購入費用、装置の保守料に割り当てる。
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