研究課題/領域番号 |
24710154
|
研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
磯上 慎二 福島工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (10586853)
|
キーワード | 窒化鉄 / 磁気緩和 / Kerr効果 / スパッタ成膜 |
研究概要 |
Fe4N単相薄膜の作製には,スパッタ成膜中の窒素ガス流量と真空中その場加熱温度の最適化が必要である.多結晶薄膜の最適条件と比較して,擬単結晶薄膜では窒素ガス流量はほぼ同等であったが,加熱温度は低いことを明らかとした.これはFe4N薄膜の下地となる膜との格子不整合率がMgO単結晶基板において大きいため,侵入窒素原子が熱分解しやすいことが原因と推察された. 振動試料型磁力計より高感度である縦Kerr効果測定装置の開発を行った.Fe4N薄膜保磁力より十分強い面内磁場を発生できるよう,Fe製の磁極を作製した.磁化の方向余弦に比例する微弱な電圧信号を,ノイズに対して優勢とするため,差動増幅型検出を用いた.外部磁場の掃引速度の設定,検出信号データの取得には,コンピュータを用いて自動化した.これにより磁化過程の実験を学内で行うことを可能とした. 縦Kerr効果測定装置を用い,Fe4N薄膜保磁力の合金相依存性を評価したところ,負の分極率が期待できるγ'相において保磁力が最小となり,六方晶であるε相において約2倍程度増大することを明らかとした.金属学的側面から今後はFe4N薄膜中の原子規則性と保磁力との関係を追及したいと考えている. 擬単結晶Fe4N薄膜における磁気緩和定数の結晶方位依存性を明らかとするため,電子共鳴装置の磁場方向を薄膜の磁化容易軸[100]方向,磁化困難軸[110]方向に向けて実験を行った.すると磁気緩和定数は[100]の方が[110]より大きいことから,磁気緩和における異方性の存在を示す有意義な結果を得た.本成果は平成26年度内に学術論文として投稿予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
負のスピン分極材料の磁気緩和制御と高効率微細スピン注入源としての応用を達成するため,平成25年度では第一に擬単結晶窒化鉄薄膜(Fe4N)の高品位作製プロセス,第二に実験進捗を早めるための縦Kerr効果測定装置の開発,第三にそれらを用いたFe4N薄膜の保磁力と磁気緩和定数評価を目標としていた. 第一目標のFe4N単相薄膜の作製では,スパッタ成膜中の窒素ガス流量と真空中その場加熱温度の最適化が必要である.基板にはMgO単結晶基板を使用しているがFe4N薄膜との格子不整合率が10 %程度あるため,格子転移が入りやすく作製が難しい.しかし,窒素ガス流量を多結晶薄膜の最適条件とほぼ同等,加熱温度は低く設定することで,X線回折評価の結果ではほぼ単相状態のFe4N薄膜が得られることを明らかとし,当初の目標を達成した. 第二目標の,磁性薄膜試料の磁化の検出には,Kerr回転角を電気信号に変換して行った.Kerr回転角は材料に依存するため,Fe4N薄膜のように決して大きいわけではない材料では,シグナル/ノイズ比率を向上する工夫が必要である.今回は光源は直流とし,検出側を差動増幅型検出とすることで磁化過程の測定を可能とし,当初の目標を達成した. 第三目標の,擬単結晶Fe4N薄膜における保磁力と磁気緩和定数の結晶方位依存性では磁気緩和定数は磁化容易軸方向[100]の方が磁化困難軸方向[110]より大きい結果を得た.今後は,この事実は他の材料においても普遍的であるかどうか検証する必要があると考えている. 以上のように,各目標に対する明確な結果が得られていることから,おおむね順調に進展していると判断する.
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究実績で明らかとなった磁気緩和の異方性について,今後はその起源の追求を行う.それにより磁気緩和定数制御の可能性が広がるため,本研究課題である高効率スピン注入源開発に貢献できると考えられる. 異方性磁気緩和の解明では,検証実験と理論計算の両方向から進める. 検証実験では,室温から極低温における磁気緩和定数を求め,そこから算出される緩和時間との相関を見出す.磁気緩和起源には,薄膜の構造的およびその結果としての磁気的な不均一性,さらに動的なスピン歳差運動が引き起こすスピン波励起などの外的要因が重畳するといわれている.我々が着目するのは,それら外的要因を排除した,材料本来の異方性である.よって,格子定数,保磁力,飽和磁化などの静磁気的な温度依存性も定量評価し,その効果を磁気緩和定数から解析で厳密に排除する.以上の方策によって,これまで明確でなかった異方性磁気緩和の原理解明を試みる予定である. 理論計算では,材料固有のスピン起動相互作用を考慮して第一原理計算を行い,上向きスピンと下向きスピンの状態密度から磁気緩和定数の算出を試みる.これにより,本来異方性磁気緩和は存在するかどうか定性的に確かめることができる.計算で仮定した格子モデルとスピン起動相互作用は,格子欠陥や不均一性は考慮されていないため実際の薄膜の実験データと整合しない可能性がある.よって,Fe4N薄膜の規則度を変化させたモデルに対する理論計算も検討課題として計画している.
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の達成度の第二(12.現在までの達成度参照)で言及したように,縦Kerr効果測定装置の開発を行った.当初は,縦Kerr効果の検出信号安定化のために,当初はロックインアンプ(現有)とビームチョッパーを用いたセットアップ(新規購入予定品:15万円)を計画していた.しかし初期検討として,直流で作動増幅検出手法としたところ,予想以上の十分なシグナルノイズ比率が得られたため,しばらくは平成25年度で構築したシステムにて実験を進めることにしたため. Fe4N薄膜以外でKerr効果が極めて小さい材料の測定では,上記理由に記載したセットアップでは検出感度やシグナルノイズ比率が不足する場合が予想される.この場合はロックイン方式とするため,ビームチョッパーの購入として使用する.そうでない場合は,再現実験を充実化する目的で,SiやMgO単結晶基板の購入を検討している.
|