研究課題/領域番号 |
24710156
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
水野 貴之 国立情報学研究所, 情報社会相関研究系, 准教授 (50467057)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 経済物理学 / ビッグデータ / ネットワーク / 空間経済学 / データサイエンス |
研究実績の概要 |
平成26年度はブーム現象の統計性を生み出す経済主体間の相互作用のメカニズムの解明を,1)企業財務,2)金融ニュース,3)不動産を対象に研究を進めた. 1)産業間のブームの解明では,はじめに,企業間の相互作用を解明するために企業間取引ネットワークの変遷について調査した.企業間取引ネットワークは非常に固定的であり,1年で約7%しか取引先を変化させていないことが明らかになった.つまり,ある企業で起きた個別ショックがネットワークを伝わり他企業に伝搬しやすい環境になっている.これまで,経済全体に影響を与えるマクロショックが企業間の業績変動の同期を生み出す主要因であると考えられてきたが,3取引先(取引先の取引先の取引先,日本の全企業100万社の1%以上)の範囲までは,個別ショックの伝播が同期の主要因になっていることが明らかになった.よって,大企業の倒産の他企業への余波は十分に警戒しなければいけない.次に,大企業に至る企業成長のダイナミクスについて調査した.これまで,企業成長はランダム乗算過程に従っていると考えられてきた.しかし,この過程では,小さなベンチャー企業が大企業に成長するまでに数十年間を要してしまい,現実と乖離している.これまでに大企業に成長した多くの企業は,ランダム乗算過程以上の,べき関数に従う急激な成長を共通して経験していることが明らかになった. 2)ニュース等の情報が引き起こす金融市場のブーム発生メカニズムの解明では,平成25年度に開発したニュースの新規性と話題性を測る指標を用いて,上場企業に関連するニュースの新規性と話題性の高さによって,その企業の株価変動が線形に反応することを見出した. 3)不動産ブームを引き起こす地域間相互作用の解明では,人口の集積と過疎化に働く力について調査をおこなった.各1km四方あたり55人を境に集積と過疎化が切り替わることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の目的は,研究代表者がこれまでに集めたブーム現象のビッグデータから,様々な「ブーム」の発生と消滅現象に共通する経済主体間の創発メカニズムを解明し,さらにブームという非常時における社会科学「ブーム学」を構築するための研究基盤を確立することにある. この目標を達成するために,4つのステップをこなす必要がある.まず,第一にブーム現象に固有の統計性の抽出,第二に統計性を生み出すメカニズムの解明,第三にメカニズムを形成する経済主体間の相互作用の解明,第四にブーム現象をシミュレートするモデルの構築である.各ステップの達成に1年間を計画している. 平成26年度までに,ニュースと金融市場,不動産,企業財務に関しては第三ステップまで達成した.家電の小売市場に関しては第四ステップまで進んでいる. このような進展状況を鑑み,当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までの研究成果を受けて,当初の計画通り,平成27年度ではブーム現象をシミュレートするモデルを構築することによって平成26年度の研究によって明らかにしたブーム現象を引き起こす経済主体間の相互作用を制御する方法を探り,過当な競争・値崩れ・高騰などブーム現象の弊害を防ぐ方法を提案していく.具体的な推進方策は以下の通りである. 1)ニュース等の情報が引き起こす金融市場のブーム発生メカニズムの解明では,新規性と話題性の高いニュースのショックが連続した場合に,市場に長期的な影響を及ぼすダイナミクス,および,ショックが企業間ネットワークを伝わって他の銘柄に波及するダイナミクスをモデル化する. 2)産業界のブームを引き起こす企業間の繋がりの解明では,企業間ネットワーク上の拡散モデルをもとに,原材料等に関するフットプリントの作成,および,取引関係の変化によるお金や物の流れの変化の可視化をおこない,流れを制御するための施策について検討する.また,日本国内だけではなく,グローバルな企業間取引ネットワークの特徴についても明らかにする.さらに,企業レベルから従業員レベルに微細化し,企業間の取引に発展する企業間の人材交流とは何かについて調査を進め,企業間取引ネットワークを変化させる政策について考察する. 3)不動産や地価ブームを引き起こす地域間相互作用の解明では,商業地の地価を,店舗の従業員数・店舗の固定資産・店舗に流れ込む客数をパラメータとするモデルで実証的に記述する.また,日本の各1km四方の人口変動と,その周囲の公共施設数や企業数などとの関係を明らかにし,地域の人口変動を記述する空間的なモデルを構築する. 各種学会,国際会議.学術論文にて研究成果および最新のブーム状況の報告をおこなう.
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