研究課題
近年,数理ファイナンス分野とは異なる研究領域で開発された情報統計力学の解析手法を用いて,ポートフォリオ最適化問題が活発に議論されている.この先行研究として,Cilibertiらはレプリカ解析を用いて絶対偏差モデルや期待ショートフォールモデルの最小投資リスクの典型的な振る舞いを解析し,Pafkaらは収益率の分散共分散行列の漸近固有値分布の解析を通して銘柄間の相関構造を特徴づけた.しかしながらこれらの既存研究では,各銘柄の収益率が各々独立に同一分布に従うことを仮定しており,現実の証券市場を十分に特徴づけているとは言えない.そこで本研究では,銘柄間に含まれる相関を考慮に入れて解析手法を拡張し,より実効的な最適化手法の構築を行うことにした.さらに最小投資リスクとなる投資戦略で定義される統計量(集中投資度:投資先が集中・分散しているかどうかを測る指標)を導き,レプリカ解析,ランダム行列の積分公式や適応TAP方程式などを用いて,その統計量の性質を調べることにした.本研究の成果として,ランダム行列理論を用いて,投資行動に影響の出る各銘柄の収益率間に含まれる相関構造を明らかにした.次にランダム行列アンサンブルの積分公式を用いて,既存研究の手法を拡張した.また適応 TAP 方程式を用いて,最適解の求解アルゴリズムを導出した.これらにより,最小投資リスクとその投資戦略が満たす集中投資度の典型的な振る舞いを解析することができた.具体的には,ランダム長方行列の各成分の分散値が均一ではないランダム行列の漸近固有値分布を評価し,その理論結果を用いて分散値が異なる銘柄群のポートフォリオ最適化問題を解析した.さらにランダム行列積分公式を用いて銘柄間の相関行列と分散共分散行列から導出される最小投資リスクや集中投資度の関係を議論した.
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日本経営工学会論文誌
巻: Vol. 65, No. 1 ページ: 17-28
電子情報通信学会技術報告
巻: Vol. 113, No. 286 ページ: 91-98