研究課題/領域番号 |
24710176
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 福島工業高等専門学校 |
研究代表者 |
松本 行真 福島工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (60455110)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | コミュニティ / ローカルナレッジ / 防災・減災 / ディバイド |
研究概要 |
本年度は被災コミュニティの実態に関する基礎的調査を実施した。具体的にはいわき市内沿岸部の薄磯・豊間区、隣接する双葉郡富岡町と楢葉町である。いわき市は自治会役員や一般住民、富岡町・楢葉町については仮設住宅自治会長や入居者、借上住宅自治会長や入居者、必要に応じて自治体関係者を対象者とした。調査手法は全世帯対象のアンケート調査(自治体除く)と協力者へのインタビュー調査を実施した。調査項目は「被災前の人づきあい、情報発信・共有、自治会活動」「避難した経緯、避難時の人づきあい」「現在の人づきあい、情報発信・共有、自治会活動」「今後の情報発信・共有に何を望んでいるか」「地域の伝承・言い伝え」「帰還・集団移転への意向」などである。以下、現段階の帰結を示す(詳細はhttp://tohokuurban.web.fc2.com/を参照)。 一つは「正しい」ローカルナレッジ形成におけるコミュニティの重要性である。津波発生後の避難は近所・隣組単位の伝達が迅速な避難を実現させた可能性が高い。避難の呼びかけはより身近な存在からの方が効果的であり、自治会・町内会や消防団、自治体単位になると逆の傾向にある。しかし「津波は危険で逃げる必要がある」というローカルナレッジを継続的にその土地に留めておくために個人や家族といった「属人的」な取組にすることが厳しい結果をもたらすのは各所の例でも明らかであり、コミュニティ単位で語り継がれるべきである。 もう一つは避難者をディバイドする要因がコミュニティやネットワークにあることが明らかになった。具体的には仮設・借上にかかわらず、何らかのコミュニティに属しているか否かで、避難者の生活上の問題点が質的に異なることを明らかにした。 浜通り地方の被災コミュニティの実態を広範かつ網羅的な視点による調査研究はあまりなく、今後数年~数十年にわたる避難者を見すえるための重要な礎となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における主なフィールドをいわき市沿岸部(主に薄磯区・豊間区)、双葉郡富岡町・楢葉町に定めており、基礎的な文献調査やアンケート調査が完了している。インタビュー調査については延べ50名以上実施しており、初年度の予定をほぼ達成していると考える。具体的には申請書にある「避難やその後の生活の困難さの要因を主に「ローカルナレッジ」の消失や未形成によるコミュニティの弱体化に求め、定量/定性調査の両面により現状の諸課題を明らかにする」ことは現段階で一定の成果を得ている。 コミュニティの現状と課題については上記調査により明らかになりつつあるが、エリア間での共通性・差異性にまではまだ立ち入っておらず、また今後のコミュニティのデザインとソリューションについても検討の段階にはなっていない。これは次の課題となるといえる。 また、一つ課題をあげるとすれば、いわき市内の他のエリア(他の沿岸部や中心市街地、中山間地域)にも比較対照のための調査(主にインタビュー調査)を実現できれば、より深い考察が得られたものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き福島県いわき市、双葉郡(富岡町、楢葉町等)出身で仮設住宅や借り上げ住宅入居者、更にいわき市内に臨時的な拠点を置く自治体を調査対象にする。 今年度は(1)ローカルナレッジ、コミュニティ、避難の関係、(2)避難者コミュニティの実態と変容、(3)地域の復興を推進する地域住民組織の比較の3つを軸に研究を展開するために、以下の方法で推進する。 (1)については津波被災地の薄磯区・豊間区(必要に応じて楢葉町・富岡町)に定め、広範なインタビュー調査を実施し、災害を含めた言い伝えやふだんのコミュニティ活動が津波避難にどのような影響を与えたのかを前年度で得られた仮説の検証も含めて明らかにする。(2)は24年度に実施した楢葉町や富岡町の仮設住宅、富岡町の広域自治会関係者やいわき市を含む一般の避難生活者へのインタビューを継続的かつ広範にすすめていくことで、コミュニティの実態と変容そして課題を明らかにするとともに、被災コミュニティのデザインとソリューションの方向を検討する。(3)については主にいわき市内沿岸部の四倉、薄磯、豊間地区などにおける復興に関する住民組織(NPOよつくらぶ、薄磯復興協議委員会、ふるさと豊間復興協議会)にフィールドを定め、地域の復興に向けた組織の役割と一般住民との関係、更には組織内の実態と(震災による)変容などを明らかにすることを通じて、旧来の「血縁・地縁型」とは異なる地域を牽引する組織のあり方を探求する。 上記の(1)~(3)をクロスオーバーさせることにより、被災コミュニティにおける防災・減災更には防犯に向けたローカルナレッジの役割とこれからのコミュニティの再構築をデザインとソリューションの視点で明らかにすることが可能であると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費については調査データ保存のための記録媒体(HDDやフラッシュメモリ)やアンケート調査のための用紙や封筒や印刷のための用紙・インクなどに用いる。 旅費については、研究代表者がいわき市から仙台市へ移動することになったため、その移動費に充当することにする。 人件費・謝金については、福島工業高等専門学校学生が行うアンケート調査回収後の入力や集計作業、更にはインタビュー調査などのとりまとめの際の学生への謝金等に充当する。 その他についてはアンケート調査郵送料や年次報告書作成・印刷のために用いる。
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