いわき市内沿岸部の薄磯・豊間区と四倉地区、隣接する双葉郡富岡町と楢葉町(からの避難者)を主なフィールドに定め、3年間の調査研究を進めてきた。具体的には震災前の地域住民組織の防災・防犯を含めた活動の実態をとらえつつ、震災後の住民組織または新たに形成されたコミュニティ(仮設住宅や広域自治会など)への関与などをアンケートやインタビューにより行った。防災等に関するローカルナレッジ形成について、現時点での帰結は以下の通りである。 豊間/四倉地区の比較を通じて、災害をはじめとしたローカルナレッジの形成は地域住民組織の活動状況や統治構造に依存すると共に、ふだんの関係が被災直後の避難行動に影響を与えており、行政と住民をつなぐ中間領域の存在が効果的な防災・防犯活動につながると考えられる。一方、双葉郡楢葉町や富岡町においても震災前の「原子力防災訓練」が実施されていた。自然災害とは状況は異なるものの、津波被災地と同じような枠組みで分析を行った。結果は次の通りである。広く一般の住民には「原発事故は起こらない(安全神話)」というローカルナレッジが形成され、また件の防災訓練は主に自治体や事業者向けであることから、一般住民にとっては訓練の存在は知っていたとしても、「原発→事故→避難」は現実的なものであるとは考えていなかった。 防災・防犯コミュニティ構築に向けて、ローカルナレッジをどう住民に「定着」させるかは地域社会への「実装」の問題であるともいえる。本研究では避難訓練の企画調査や復興に関わる地域住民組織への関与を通じて、具体的なレベルでのローカルナレッジの実装方法の検討や提案をすすめてきた。現時点まで得られた知見としては、地域社会における暗黙知をどう形式化するか、そして意思決定プロセスにどうローカルナレッジとして定位するかが課題となることである。
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