研究課題
2011年3月11日に発生したマグニチュード(M)9.0 の東北地方太平洋沖地震は、多様で甚大な被害を広域にわたって及ぼし、今もその影響は続いている。防災先進国といわれてきたわが国ではあるが、想定外とも言われる有史以来最大級の巨大地震は、その危機管理能力の低さや防災上の多くの課題を突きつけた。地震多発期を迎えたといわれる地震災害をはじめ、多様な自然災害に見舞われるわが国において、その影響を最小限にとどめ、人々が安全で豊かな生活を持続的に営むことのできる環境の実現は、先の東日本大震災を例示するまでもなく、国家の最重要課題のひとつといえる。その解決策としての総合的な防災対策は、事前の被害抑止対策、被害軽減対策、発災直前の予知・予測技術に基づく警報と、災害発生時の被害評価、評価結果に基づく緊急対応、そしてスムーズな復旧・復興から構成される災害対応の循環体系によって達成される。本研究が目指すシステムは、上記のプロセスを達成する環境を整備する「持続可能な災害対応危機管理システム」である。すなわち、現状の課題を正確に抽出し、平時にその課題の改善に努めるとともに、発災直前の警戒から発災後の正確な被害状況の評価と、その評価結果に基づいて、的確に対応する「平時から有事へのシームレスな対応」を実現するシステムである。これを実現する上で私たちが認識している最重要課題は、「災害状況の時間的・空間的な推移を正確に予測するモデル(以下では、災害の時空間推移モデルという)」の開発である。今年度は、災害状況の時間的・空間的な推移モデルの構築のベースとして、東日本大震災の行政対応を分析した。
2: おおむね順調に進展している
本研究で目指すシステムは次のようなものである。「過去の実際の災害と災害対応のデータベース(以下ではRL 災害DB という)」から、「災害の時空間推移モデル」を作成し、災害のたびにこのモデルの検証を行い、精度の向上をはかる。平時には想定を越えるハザードを含めた様々なレベルのハザードを入力とした「仮想の災害と災害対応のデータベース(以下ではVR 災害DB という)」を整備するとともに、その結果に基づいて、潜在的な課題の抽出(組織体制や人員配置なども含む)と解決策の検討、およびその実施によって事前対策を充実させる。発災直後には、限られたハザード情報と「RL+VR 災害DB」のパターンマッチングから被害を予測し、「災害の時空間推移モデル」にインプットする。現在までに東日本大震災の事例から行政対応を分析し、本研究で目指しているシステムを達成するための活動は十分にできている。
今後の研究として、「災害の時空間推移モデル」、「防災マニュアル」と「最適人材運用モデル」を構築する。過去のさまざまな災害のハザード情報と人口等の基盤データを入力データとし、過去の災害の時空間的な推移を研究し、これを精度よく表現するための定式化を行う。この定式化において、過去の災害の時空間的な推移と比較し精度を向上させていく。「災害の時空間推移モデル」の構築後、これを利用し、事前の想定を超えるさまざまな状況を「仮想入力条件」として与えることで、想定外の災害状況をデータベース化し、蓄積する。「東日本大震災」の各種の対応において、盛んに繰り返されている「想定外の○○」のために、適切な対応がとられず、結果として被害が拡大したり、スムーズに収束していかない状況を大幅に改善できる。また将来的にこのようなシステムを、全国の都道府県と市町村が導入することで、他地域での災害対応の経験や教訓が、今までよりも格段に共有されることになる。
次年度は、当初の計画に従い、マスコミデータの利用料、データ収集と分析作業の補助、被災地調査のための旅費に使用する。これらの研究成果を国内と海外の両面の学会に参加し、成果の普及に努める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (3件)
土木学会論文集A1(構造・地震工学)
巻: Vol.68, No.4 ページ: 1015-1022
巻: Vol.68, No.4 ページ: 969-975
Journal of Japan Society of Civil Engineers, Ser. A1 (Structural Engineering & Earthquake Engineering (SE/EE))
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Journal of Civil Engineering and Architecture
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