昨年度までの検討において,災害時における社会基盤施設の復旧速度を予測するための統計モデルと社会的に必要とされる社会基盤施設サービスの需要や経済的影響を定量的に評価するためのシミュレーション技法を構築してきた.本手法は,既往災害における被害データを基に構築されており,地震動の大きさなどの外力を与えることで社会基盤施設やその他の産業施設の機能的な被害や復旧状況を模擬することができ,東日本大震災の実際の状況についてもある程度の再現性を有することが示されている.本年度は,こうしたシミュレーションモデルが実用化段階にあることを念頭に,社会基盤施設の機能障害発生時において,設備管理者側だけでなく,利用者側が被害軽減を行うための戦略について検討を行った.利用者側の対策として,雨水の利用を例として取り上げ,平常時の利用と災害時の被害軽減効果につながる項目を抽出し,その便益を計量化するモデルを構築した.さらに,実際に存在する企業の協力の下で,その地域の降雨量のパターンや雨水で代替可能な水道の利用量などのデータを収集し,評価モデルを適用した結果,平常時と災害時における純便益を最大とする最適な雨水貯留タンクサイズの決定などに役立つことが示された.このようなアプローチは,重要な地域拠点における自然エネルギーの導入などを対象にしたケースにおいても,適用が可能となる.災害時の条件設定を精緻化し,社会基盤施設の管理者側の災害対策や維持管理方針と組み合わせることで,よりきめ細かな被害軽減戦略につながることが期待され,本研究ではそのためのフレームワークや基礎モデルが示されたといえる.
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