研究課題
若手研究(B)
平成24年度は,(1)ガラスビーズを用いた室内での粉体流実験で観察された現象について,二次元浅水流型モデルによる再現実験を行い,数値モデルと摩擦則の適用性について評価を行った.また,(2)スフリエールヒルズ火山での溶岩ドーム崩壊イベントに伴った火砕流とその堆積物の形成過程についての考察と,北海道駒ケ岳1929年噴火の火砕流堆積物の特徴についてコンパイルを進めた.(1)については,主に異なる粉体摩擦則(係数一定摩擦則と,摩擦係数の物理量依存性を考慮した摩擦則)が計算結果に及ぼす影響について評価を行った.その結果,定常流に近い粉体流が生じる条件の下では,後者の摩擦則を用いた場合に流走距離や流れの先端形状などについて良い再現性が得られたが,非定常性が強い場合には前者の摩擦則において再現性が良いことがわかった.この研究により,物理量依存性を考慮した摩擦則の有用性が示されたとともに,その適用限界についての理解が進んだ(Maeno et al., 2013).一方(2)については,2003年と2006年の火砕流イベントを対象とし,崩壊に伴う地震の強度と継続時間から推定される火砕流の流量変化と,地形データをもとに,火砕流の発生・流走過程および堆積物形状を再現する試みを行っている.とくに2006年イベントでは,堤防状の形態を有する特徴的な火砕流堆積物が形成されたが,この堆積物形状は,浅水流型モデルに物理量依存性を導入した摩擦則を導入することにより再現可能であることがわかった(平成25年度国内・国際学会にて発表予定).また,単純な系を用いた数値実験からは,火砕流がSlope break point(摩擦角と山体傾斜角が等しくなる点)を通過後にこの特徴が発達していく様子が観察された.現在,火砕流の流走面の傾斜,摩擦角などの粉体物性,堆積物形状との関係について,他の事例も含めて考察を進めている.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,火砕流と粉体流の類似性に着目し,粉体流の摩擦則(摩擦係数の物理量依存性)を考慮した火砕流の二次元数値モデルの開発・改良を行うこと,また,国内外のいくつかの活火山を対象とし,過去に発生した火砕流の数値シミュレーションを実施し,観察・観測データとの比較にもとづきモデルの妥当性について検証することを目的としている.平成24年度は,この目標の主に前半の項目に関する研究として,二次元浅水流型モデルを用いて,室内での粉体流実験の結果の再現を試みた.とくに浅水近似の妥当性と摩擦則の影響について議論し,その成果をPhysics of Fluids誌に公表した.数値モデルの適用性とその問題点について整理できたことは本年度の大きな成果である.またこの研究では,実験結果とスケーリング解析をもとに,初期条件と堆積物形状を結び付ける無次元パラメータを導き,粉体の物理に関する新知見が得られたことも大きな成果である.さらにこの研究成果を踏まえて,当初の予定通り,スフリエールヒルズ火山での火砕流イベントを例にして,数値モデルや計算手法を天然の系へ拡張する試みを開始した.実際の観測量や地形データをもとに,火砕流の挙動や堆積物の分布・形状が数値モデルにより再現可能かどうかについて調べているが,現在のところ,物理量依存性を考慮した粉体摩擦則の導入が,火砕流の特徴を再現するために重要であるという予察的成果が得られている.また,火山体の斜面角度や地形が火砕流の挙動に及ぼす影響について,スフリエールヒルズ火山だけでなく,北海道駒ケ岳の事例なども含めて検討を開始した.一方,マニング抵抗則の影響評価についても当初の研究項目に掲げていたが,これについてはまだ検討が不十分であるため次年度も継続して行う.
スフリエールヒルズ火山に加えて,北海道駒ケ岳火山も対象に含め,火砕流現象と堆積物の分布および形状をコントロールする要因について,数値実験をもとに探る.具体的には,24年度に改良した二次元浅水流型数値モデル(Maeno et al., 2013)を用いて,観測データをもとに制約される初期条件や,起伏のある地表面を考慮した条件の下での数値計算を行い,得られた結果をもとに議論する.とくに,以下の3点について重点的に研究を進める.(1)異なる粉体流の摩擦則(クーロンの摩擦係数一定則,摩擦係数の物理量依存則,マニング抵抗則)を用いた場合に,堆積物の分布や微地形(堤防構造,条溝,舌状地形など)の特徴にどのような違いが表れ,また,実例をどの程度再現できるかについて調べる.スフリエールヒルズ火山については,物理量依存性を考慮した粉体摩擦則の導入が,火砕流の特徴の再現において重要であるという成果が得られつつあるが,パラメータスタディが不十分であり追加計算が必要である.また,堆積物データと数値計算をもとに火砕流の噴出条件(流量や体積)の推定を行い,火砕流発生時の観測データとの整合性についても調べる.(2)将来火砕流が発生した場合を想定したパラメータ・スタディを行い,火砕流の時間発展・到達時間・到達域について明らかにし,起こり得る火砕流災害の程度やその範囲ついて明らかにする.また,従来のデータや手法にもとづく結果と比較する.(3)これまで得られた結果について,発生高度,崩壊量,流量などの初期条件に対する,火砕流の最終堆積状態(分布域,流走距離)との関係を示し,既存の火砕流モデルや経験則との整合性について調べる.これにより,従来のモデルや災害評価の手法との違いを明確にし,得られる結果について考察する.
該当なし.
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (5件)
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