研究課題
平成25年度は,主にカリブ海スフリエールヒルズ火山における2006年溶岩ドーム崩壊イベントに伴った火砕流とその堆積物の形成過程について,二次元浅水流型モデルを用いて数値実験を行い,堆積物の観察事実(分布,形状)との整合性およびモデルの妥当性について考察した.火砕流数値モデルには,前年度に室内実験スケールでの有用性を示した,摩擦係数の物理量依存性を考慮した粉体摩擦則にもとづくモデルを用いた.また,前年度に不十分であった初期条件,摩擦係数や粒子サイズに関するパラメータ・スタディを多数行い,より多面的に計算結果を検討した.とくに初期条件については,実際の地球物理学的観測(崩壊に伴う地震の強度変化や継続時間)をもとに推定される火砕流流量の変化を時間関数で表現することにした.その結果,2006年イベントで形成された火砕流堆積物の特徴,すなわち,堤防状の構造を有し,流走方向に長く伸びた堆積物は,上記数値モデルを用いることにより再現できることがわかった.その他の初期条件や境界条件についても従来の研究や観測,観察事実と矛盾せず,妥当なものである.また,火砕流の流速や堆積物形状の時間発展の様子など,堆積物の観察結果のみからは構築できない火砕流の流走・定置のダイナミクスに関する知見を得ることができた.一方,前年度に単純な系を用いた数値実験をもとに,火砕流がSlope break point(摩擦角と山体傾斜角が等しくなる点)を通過後に堤防状構造が発達することを見出したが,スフリエールヒルズ火山の場合もこの条件を満たしていることがわかった.これらの成果は国内および国際学会で発表し,また,論文化を進めている.現在,前年度から引き続き,複数の事例について火砕流の流走面の傾斜,摩擦角などの粉体物性,堆積物形状との関係について考察を進めている.
2: おおむね順調に進展している
本研究では,火砕流と粉体流の類似性に着目し,粉体流の摩擦則を考慮した火砕流の二次元数値モデルの開発・改良を行うこと,また,国内外のいくつかの活火山を対象とし,過去に発生した火砕流の数値シミュレーションを実施し,観察・観測データとの比較にもとづきモデルの妥当性について検証することを目的としている.平成25年度は,この目標の後半部分に関する研究の一部として,スフリエールヒルズ火山における2006年溶岩ドーム崩壊イベントに伴った火砕流を例にして,数値モデルや計算手法の天然の系への拡張を試み,ほぼ当初の予定通り研究を進めた.火砕流の挙動や堆積物の分布・形状が数値モデルにより再現可能かどうかについて,観察・観測データと矛盾しない初期条件,境界条件のもとでの多数のパラメータ・スタディを行い,粉体摩擦則の導入が重要であるという結果が得られ点は,本研究の最も大きな成果の一つである.一方,火山体の斜面角度や地形が火砕流の挙動や堆積物の特徴に及ぼす影響など,まだよくわかっていない点は残されており,スフリエールヒルズ火山を含めて他の複数の事例について今後さらに検討する必要がある.
スフリエールヒルズ火山以外の複数の事例について,火砕流現象と堆積物の分布および形状をコントロールする要因について,地質調査,文献調査および数値実験をもとに探る.24年度に改良した二次元浅水流型数値モデルを用いて,観測・観察データをもとに制約される初期条件,起伏のある地表面を考慮した条件の下での数値計算を行い結果について考察する.とくに,以下の3点について今後も継続して重点的に研究を進める.(1)異なる粉体流の摩擦則や摩擦係数条件を用いた場合に,堆積物の分布や形状の特徴にどのような違いが表れ,また,実例で見られるような微地形(堤防構造,条溝,舌状地形など)をどの程度再現できるかについて調べる.一方,堆積物データと数値計算をもとに火砕流の初期条件(流量や体積)の推定を行い,火砕流発生時の観測データや堆積物との整合性について検討する.(2)将来火砕流が発生した場合を想定したパラメータ・スタディを行い,火砕流の時間発展・到達時間・到達域について明らかにし,起こり得る火砕流災害の程度やその範囲ついて明らかにする.また,従来のデータや手法にもとづく結果と比較する.(3)これまで得られた結果について,発生高度,崩壊量,流量などの初期条件に対する,火砕流の最終堆積状態(分布域,流走距離)との関係を示し,既存の火砕流モデルや経験則との整合性について調べる.これにより,従来のモデルや災害評価の手法との違いを明確にして得られる結果について考察する.
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (5件)
Bulletin of Volcanology
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