研究課題/領域番号 |
24710206
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中谷 加奈 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (80613801)
|
キーワード | 土石流 / 扇状地 / 家屋 / 破壊 / 実験 / 伊豆大島災害 / シミュレーション / 道路 |
研究概要 |
本年度は、扇状地における家屋が土石流の氾濫・堆積に及ぼす影響について、特に家屋破壊に着目して検討した。 平成25年10月に伊豆大島で発生した大規模な土石流災害について、現地調査や直後に撮影された斜め写真などを元に、家屋の被害状況と流動痕跡や堆積状況、流木の対応を整理した。土石流の直撃を受けた上流では多くの家が全壊・流出しているが地盤の高い位置にあった家は被害を免れた。下流側では、地盤の低かった流路沿いに被害の大きな家が集中し、橋脚の閉塞が起こったエリア周辺では道路沿の横断方向へ水・土砂が移動したことが確認された。下流では一階部分が破壊されても二階部分は残っている家も見られ、一階が破壊された家ではその中を水や土砂が通過した痕跡が確認された。また、家や塀の間の道路を流路として、特に下流側では流れが流下方向だけでなく横断方向にも移動することが実災害でも確認された。 模型実験を実施して、家屋は存在するが破壊は起こらない場合、家屋が存在して破壊も起こる場合について、通水中の家屋周辺での流動深・堆積厚の時系列的な変化や、通水後の堆積状況のデータを取得した。家屋が有る場合でも、破壊が発生すると破壊された家屋の中を土石流が通過するため、特に破壊の起こった家の下流側では破壊が発生しない家屋と比較して、到達する水・土砂が増えて、流動・堆積状況が異なることが確認された。また、下流だけでなくその家屋の横方向への流動・堆積も変化することが確認された。実験と同様の条件で、土石流シミュレーションを実施した。結果から、構造物の破壊を考慮すると、破壊が発生した構造物の下流で破壊されない場合と比較して大きな流動深・堆積厚が発生することや、破壊が発生しない場合よりも下流側への水・土砂の流下が多くなる傾向が確認され、実験結果と同じ傾向を示すことが確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度には、扇状地における構造物の存在が土石流の氾濫・堆積過程に与える影響について、特に構造物の破壊が発生する流体力の検証や、構造物の破壊による流動・堆積に及ぼす影響の検証を予定していた。 破壊の生じる流体力については、土石流災害事例だけでなく、洪水や津波などの既往研究や災害事例から、家屋の破壊限界となる流体力を検証した。木造家屋だけでなく、東日本大震災以後は鉄筋・鉄骨の家屋の破壊指標についての検討も多いため、構造の違いによる破壊の発生した水深・流速や流体力について情報を収集し整理した。次に、模型実験では一定の流体力がかかると破壊が起こる家屋模型を作成し、破壊の発生の有無で流出過程や堆積状況がどのように変わるかを検討した。これまで検討例がほとんどなかった家の破壊の影響による扇状地での水位・堆積厚変化についてのデータを実験で取得することができた。家屋が破壊される条件では、破壊されない場合と比べてその家屋の下流側に水・土砂が到達することが確認された。平成25年度に発生した伊豆大島災害についても、家屋の被害状況や破壊状況について情報収集し整理したが、その結果とよく対応した。このように家屋の破壊が発生するかどうかで、その周囲の安全度が変わることが確認された。また、下流では家や塀に囲まれた領域の道路が土石流の流路となり、より下流や横断方向にまで流れが移動する現象も確認され、被害を軽減するためには構造物の配置、更には破壊の有無を考慮することが重要であることが示された。家屋の有無については、ある流体力がかかると家屋が破壊され、家屋位置の計算点が家屋の高さ分地盤が低くなるという条件でシミュレーションを実施したが、その場合も実験や災害事例同様に、破壊が発生した家屋の下流へ水・土砂が到達して危険となることが確認された。
|
今後の研究の推進方策 |
扇状地における、集落全体の安全性向上に対応した適切な構造物の強度・配置・整備の検討手法の提案を行うために、次の二項目を検討する。 1.扇状地の構造物の氾濫・流動・堆積や破壊過程を検討できるシステムを提案 2.DEMやLPデータの活用やGUI整備により、構造物の影響を検討しやすくする これまでに得られた知見を元に、扇状地で土石流が発生した際の氾濫・堆積状況について、構造物の存在や構造物の破壊の影響を検討できる数値シミュレーションシステムを作成する。地形条件は、砂防分野で整備されたDEMやLPデータを活用することで、高精度の地形データが反映されて、家屋や塀なども容易に設定できるようにする。これらを踏まえて、個々の家屋だけについて安全・危険を判定するのではなく、扇状地における集落全体についての安全性を高める、被害を小さくするための防災対策が検討できる、GUIを整備したシステムを提案する。開発したシステムでは、扇状地における構造物による防災・減災対策をユーザーが容易に検討できるものとする。構造物については、高さや位置だけでなく、構造物の強度も設定可能にする。このようなシステムを提案することによって、構造物の新設や移転、強度設定をユーザーが容易に行えるようになることで、居住エリアの扇状地における、個人や集落での対応策を検討することが出来る。
|