扇状地で土石流が発生した際の氾濫/堆積について、構造物の存在や配置、部分的に破壊まで検討できる数値シミュレーションシステムを作成し、個々の家屋のみを検討するのではなく、扇状地の集落全体の被害軽減のための防災対策が検討できる、GUIを整備したシステムを提案した。砂防分野で整備されたDEMやLPデータ、日本全国を網羅した国土地理院のデータを利用可能として、地盤高から構造物の高さを設定して家屋を考慮する機能を実装した。 平成26年8月広島で発生した土石流について現地踏査や情報収集を行い、本システムで数値シミュレーションを実施した。家屋の考慮の有無、谷出口に高い構造物が存在するシナリオ、谷出口から直線的に延びた道路幅の拡大・縮小の影響を検討した。集落の家屋配置による氾濫/堆積範囲の違いも検討した。扇状地の家屋が比較的整列して、谷出口から直線的に伸びる、それに直交する道路がある集落は、家屋を考慮する方が実際の氾濫/堆積や被害状況をよく表現した。谷出口に高い集合住宅が存在して破壊が起きないと仮定したシナリオでは、谷出口の上流側で顕著に堆積して集落の下流の堆積範囲や値が小さくなった。道路幅を広げると、氾濫/堆積が生じる範囲は拡大するが、顕著な値を示すエリアは減少して一様に小さな値の領域が広がる。道路幅を狭くすると、氾濫/堆積が生じる範囲は縮小するが、顕著な値を示す領域が拡大し、主流路となる道路途中で堆積により流れ方向への流動が阻害され、横断方向への氾濫/堆積範囲が一部広がった。家屋が扇状地に点在し道路も直線的でない集落では家屋の有無による氾濫/堆積範囲はあまり変わらなかったが、顕著な被害を生じた箇所は家屋を考慮したケースの方がよく表現した。 本検討から、土石流時に危険な道路や被害が大きくなる可能性の高い家屋が明らかとなり、特に避難を検討する際の防災対策を考える際の有効な指標となりうる。
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