最終年度においては、成果取りまとめと、その過程で看過できない新たな堤防自主決壊事例が確認されたため、これに関して史資料および現地調査を実施した。 当該の自主決壊事例は、昭和28年9月の淀川水害時に、宇治川と木津川に囲まれた巨椋池干拓地での氾濫水の排水処理に実行されたものである。この自主決壊は宇治川の木津川と合流する付近の御幸橋上流側左岸にある、現在の大池樋門地点で行われており、伊丹駐屯地保安隊の手によっている。軍の介入による自主決壊は、昭和22年のカスリン台風時に、利根川中流右岸が破堤氾濫し、東京下町まで流下し氾濫水が江戸川堤防と桜堤によって行き場を失い、この氾濫水処理にGHQが江戸川右岸堤の自主決壊を試みた事例があるが、数少ない実例として、今後の大規模水害時の非常時の危機管理として参考になる部分も少なくないと考える。 また、これまでの自主決壊事例の史資料および現地調査で得られた知見と、近年の水害調査で得られた自主決壊と等価な氾濫水の排水処理効果についての数値シミュレーションモデルの構築と、成果の取りまとめにも着手したが、急遽の上記調査のため最終年度の達成目標には十分達しておらず、こちらについては現在実施中である。 研究期間全体については、戦後以降の著名な自主決壊事例の現地調査を網羅し、また近年の水害事例において、本テーマの参考となる現地調査および地形測量を完了している。個々で得られた知見とデータは、数値シミュレーションや成果報告以外に、整理した上でデータベースを作成してホームページなどで発信していく予定である。
|