研究課題/領域番号 |
24710216
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
相原 仁 長崎大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (80587717)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / ヒストン修飾 / リン酸化 / ユビキチン化 / キナーゼ / ChIP-seq |
研究概要 |
クロマチンを構成するヒストンH2AのC末端領域119番目リジン残基は、ポリコーム等のタンパク質複合体によってユビキチン化される。このユビキチン化(ubK119-H2A)は、転写を抑制することが知られている。我々は、生化学的解析結果に基づき、クロマチン結合性のVRK1キナーゼによる隣残基120番目スレオニンのリン酸化 (pT120-H2A) がubK119-H2Aに拮抗し、転写を活性化するという仮説をたて、培養細胞を用いた解析で検証を試みた。 2012年度にはChIP-seq解析を行い、我々の仮説を裏付けるデータが主な成果として得られた。siRNAによるVRK1のノックダウンおよび発現マイクロアレイ解析結果をもとに推定したVRK1の標的遺伝子の領域において、VRK1のクロマチン結合領域とpT120-H2A領域のオーバーラップを確認した。またsiVRK1処理サンプルでは、オーバーラップ領域のpT120-H2Aのシグナルが消失することから、VRK1によるH2Aの直接的リン酸化が強く示唆される。さらに、それらの遺伝子のうち、pT120-H2Aのシグナルが強い領域ではubK119-H2Aのシグナルが弱く、またsiVRK1処理によってそのパターンが逆転する遺伝子を同定した。以上の結果は、上述の仮説を立証するものである。現在、データの補強として、H2Aユビキチン化E3酵素Ring1B、転写活性化や不活性化のマークであるヒストン修飾についてもChIP-seq解析を行っている。 さらに、pT120-H2AとubK119-H2Aの相互拮抗作用で転写制御される遺伝子であり、細胞増殖や癌化のキーレギュレーターであるCyclinD1に着目して発展的実験を遂行し、VRK1によって制御される遺伝子のうち、細胞増殖の観点からCyclinD1が主要な遺伝子であることを示す結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度の計画4項目の達成状況として、予想以上に進展した項目1、予定通りの項目2および3、未完了の項目4を考慮して、自己評価2とした。 1、ChIP-seq解析については、概要に記した通り、ほぼ目的を達成した。新たな発展課題の成果として、siVRK1処理下でCyclinD1の発現回復を行った結果、siVRK1で著しく低下した細胞増殖率が回復した。また既に我々は、リン酸化模倣体H2A-T120Dの過剰発現が細胞の癌化を引き起こすという興味深い結果も得ており、VRK1-H2Aリン酸化-CyclinD1経路の厳密な制御が細胞増殖や癌抑制に働いていると考えられ、さらなる証明を行っている。 2、各細胞周期でのVRK1による遺伝子発現制御については、細胞周期を同調させたサンプルを調製し、ChIP解析を行った。CyclinD1遺伝子領域においては、発現レベルが高いG1期の細胞において、pT120-H2Aが高くubK119-H2Aが低い、つまり我々の主張する仮説と一致する結果を得た。 3、VRK1に拮抗するH2Aユビキチン化酵素(HUB)およびVRK1と協調するH2A脱ユビキチン化酵素(DUB)の同定については、HUBやDUBのsiRNAおよびRT-qPCRを用いて、VRK1標的遺伝子の発現上昇や低下を指標に評価した。その結果、HUBとしてRing1BとDZIP3を同定できたが、DUBは同定できなかった。現在、ChIP解析によってVRK1標的遺伝子領域へのRing1BとDZIP3の結合を調べるとともに、発現マイクロアレイを用いた解析も行っている。 4、VRK1と遺伝子転写を仲介する因子の同定については、抗VRK1抗体や複数のタグを用いて、VRK1複合体をアフィニティー精製し、SDS-PAGEで候補のバンドを複数確認した。現在、LC-MS/MSを用いてタンパク質の同定を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は以下の3項目の課題を実行する。 1、2012年の研究結果から生じた新たな課題すなわち、VRK1のH2Aリン酸化によるCyclinD1遺伝子転写活性化とH2Aユビキチン化による不活性化の詳細なメカニズムの解析を行う。外来性のVRK1やCyclinD1の発現による回復実験によって、細胞増殖効率や転写効率の回復ができるかどうかを検討する。またCyclinD1遺伝子の転写抑制に働くH2Aユビキチン化E3酵素の同定をChIP解析により明らかにする。さらに、siRNAを用いた内在性H2AのノックダウンならびにH2Aリン酸化模倣体の発現によるH2Aの置き換えを試み、同様に回復実験を行う。また2012年に未完了のVRK1結合因子の同定も引き続き行う。 2、培養細胞の実験系から考えられるVRK1の機能が、実際に生体内でどのような生理的役割を果たすのかを明らかにする。そのため、vrk1遺伝子破壊マウス(雌雄とも不妊であり、雄では精原細胞が著しく減少する)を用いて、生殖細胞形成過程のどの段階で異常が観察されるかを各分化マーカーを指標に特定し、クロマチン形態レベルの異常も検討する。 3、vrk1遺伝子破壊マウスを用いたゲノムワイドスケールのChIP-seqとRNA-seqを行い、生殖系列細胞におけるVRK1標的遺伝子を同定する。マーカーとしてc-kitを指標に、FACSを用いて精原細胞を選別し、精度の高い解析を行う。この計画がスムーズに進行すれば、H2A-T120リン酸化やH2A-K119ユビキチン化部位に変異を導入したH2Aを過剰発現するトランスジェニックマウスを用いた解析も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請当初の計画通り、主に以下の消耗品の購入を予定している。 細胞培養に用いる血清、培養液、ピペットやシャーレなどのプラスチック製品、RT-PCRに使用するプライマー用の合成オリゴDNAやqPCR酵素試薬やプレート、マウス精巣の凍結切片作製試薬や免疫染色に用いるマーカーなどの各抗体、各種試薬(遺伝子導入に用いるトランスフェクション試薬、ChIP-seqなどのライブラリ作製に必要な試薬)、FACSのランニングバッファー、交配に必要な野生型マウス
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