研究課題/領域番号 |
24710221
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
穂積 俊矢 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10597222)
|
キーワード | 遺伝子発現 / Notch / エピジェネティクス / ゼブラフィッシュ / 内胚葉 / 網膜 / 脊椎 |
研究概要 |
(1) Notch情報伝達系抑制胚を用いた解析 Notch情報伝達系が抑制されているmind bomb(mib)変異体を用いて解析を行ったところ、網膜において、初期内胚葉マーカー遺伝子 (sox32・sox17)、初期中胚葉マーカー遺伝子(no tail a)のほかに、外胚葉・中胚葉・内胚葉の分化マーカー遺伝子の異所的発現も検出された。これらの結果から、Notch情報伝達系が抑制された網膜では、胚葉を越えた遺伝子発現がおこっていることが示唆された。この異所的な遺伝子発現に関与するシグナル伝達系を探索したところ、中胚葉と内胚葉の遺伝子発現にはNodal情報伝達系が必要である事が示唆された。一方、Notch情報伝達阻害剤処理胚では、網膜以外に脳と脊椎の腹側においてインスリンなどの異所的な遺伝子発現が検出された。阻害剤処理の処理時間と脊椎の神経分化過程を比較した結果、腹側脊椎におけるインスリン発現細胞はオリゴデンドロサイトである事が予想された。 (2) 転写活性型・転写抑制型のヒストン修飾の検出 (1)の実験結果から、Notch情報伝達系抑制胚では大規模な転写の活性化が起こっている事が予想された。そこで、転写活性型ヒストンの目印であるヒストンH3K9とH3K27のアセチル化や、転写抑制に関与するヒストンH3K9とH3K27の3重メチル化、DNAメチル化を特異的な抗体を用いて組織染色を行うことにより検出した。その結果、コントロールと比較しmib変異体や阻害剤処理胚の網膜において大きな変化は見られなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の実験計画では、網膜における遺伝子発現変化の原因となるDNAメチル化とヒストン修飾や、その過程で関与する因子との相互作用の検出を計画していたが、Notch情報伝達系抑制胚の網膜では、DNAメチル化やヒストン修飾の大きな変化は検出できなかった。DNAメチル化抗体や修飾ヒストン抗体を用いたクロマチン免疫沈降法を行うことにより、修飾を受けているDNAやヒストンを遺伝子特異的に検出することを計画したが、網膜内の遺伝子発現に異常を示している領域のみを単離して実験を行うことは困難である事が予想された。そのため、マウス繊維芽細胞の細胞株であるNIH 3T3細胞を用いて実験を行ったが、良い結果は得られていない。 その一方、異所的な遺伝子発現はNodal情報伝達系が関与する事を明らかにした。また、Sonic hedgehog 情報伝達系を抑制して、網膜の神経分化を抑制した結果、異所的な遺伝子発現が抑制された事から、神経分化の過程が網膜における胚葉を越えた遺伝子発現に必要である事が示唆された。現在はゼブラフィッシュ初期胚や脊椎を用いた実験を準備しており、実験条件を精査してからほ乳類の培養細胞の実験系に移行する事を計画している。
|
今後の研究の推進方策 |
実験1 bHLH型転写因子の過剰発現実験 これまでの実験結果から、Notch情報伝達系の下流で、オリゴデンドロサイトの分化に機能するbHLH型転写因子であるoligodendrocyte lineage transcription factor 2 (olig2)やachaete-scute complex-like 1a (ascl1a)に注目する。脊椎に発現するgfap遺伝子のプロモーターを用いて、これらの遺伝子を脊椎で過剰発現する事により、Notch情報伝達阻害剤処理胚と同様に、インスリンなどの遺伝子が脊椎で異所的に発現するか確認する。また、ゼブラフィッシュ初期胚にolig2とascl1aのmRNAを顕微注入し過剰発現を行い、異所的な遺伝子発現が起こるか調べる。この実験により、より未分化な状態の細胞で遺伝子発現を調節できるか確かめる事ができる。 実験2 胎児マウス繊維芽細胞などほ乳類の細胞を用いた実験 ゼブラフィッシュの実験条件を参考にして、未分化な状態であると考えられているマウス胎児繊維芽細胞やES細胞にolig2とascl1aを過剰発現させ、遺伝子発現の変化を定量的RT-PCRにより検出する。また、発現の変化が見られた遺伝子に対して、修飾ヒストン抗体やメチル化DNA抗体を用いてクロマチン免疫沈降法を行うことにより、エピジェネティックな変化を検出する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
実験計画の変更により、ISH-PLAによるエピジェネティクス解析とアンチセンスモルフォリノなどを用いたノックダウン実験を行っていないことや、培養細胞の維持・管理や修飾ヒストン抗体は共同研究として他研究室の試薬を利用しているので、出費を抑えられた事が原因である。 培養細胞実験 ¥550,000、クロマチン免疫沈降法など分子生物学的実験 ¥600,000、阻害剤 ¥250,000、抗体など組織学的実験 ¥200,000、その他の消耗品 ¥92834、合計 ¥1,692,834
|