[平成24年度・平成25年度の研究成果] Ddx46変異体の網膜における、膵臓遺伝子を含む内胚葉・中胚葉遺伝子発現は、Notch情報伝達系の異常が原因であることを明らかにした。そして、Notch情報伝達系阻害胚では、網膜に加え、脳と脊椎(中枢神経系)において内胚葉・中胚葉遺伝子の異所的な発現が認められた。また、この遺伝子発現にはNodal情報伝達系が必要であることを明らかにした。 [平成26年度の研究成果] Notch情報伝達系により中枢神経系において発現が抑制される転写因子に着目し、機能阻害実験を行った結果、bHLH型転写因子であるAchaete-scute family bHLH transcription factor 1a (Ascl1a)が、Notch情報伝達系阻害胚の中枢神経系における内胚葉・中胚葉遺伝子発現の原因であることが明らかとなった。一方、Ascl1aの過剰発現実験では、この内胚葉・中胚葉遺伝子発現は検出されなかったことから、Ascl1aと共に機能する因子が必要であることが予想された。続いて、遺伝子発現の活性化に機能するヒストンメチル基転移酵素Mixed-lineage leukemia (MLL)の阻害実験を行ったところ、Notch情報伝達系阻害胚の中枢神経系における内胚葉・中胚葉遺伝子の発現が抑制された。この結果から、ヒストンのメチル化修飾が、中枢神経系における内胚葉・中胚葉遺伝子の発現に必要であることが明らかとなった。 [意義・重要性・これからの課題] これらの結果により、中枢神経系から他の細胞系譜の遺伝子発現を制御する機構が明らかになり、新規性が高く、重要な発見であった。これからの課題として、Ascl1aと共に機能する因子を同定することが挙げられる。それにより、生体内で細胞系譜を超えた遺伝子発現を調節することが可能になると考えている。
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