研究課題/領域番号 |
24710225
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松村 欣宏 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (20375257)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | エピゲノム / 代謝 / ヒストンメチル化 |
研究概要 |
ヒストン修飾によるクロマチン構造変化は遺伝子発現を後天的に制御し、多因子性疾患発症の鍵となる。本研究では、転写抑制のエピゲノムコードとして機能するヒストンH3の9番目のリジン (H3K9) に焦点をおき、細胞が栄養環境に適応する際に起こるエピゲノムによる代謝制御、ならびに代謝物によるエピゲノムのフィードバック制御を明らかにすることを目的とする。3T3-L1脂肪細胞分化過程において細胞外フラックスアナライザーを用いた代謝解析を行ったところ、分化に伴う解糖系ならびにミトコンドリア代謝の亢進が認められた。更にメタボローム解析をおこなったところ、脂肪細胞分化に伴う解糖系ならびにTCAサイクル代謝物の増加が見られた。脂肪細胞分化を抑制するH3K9メチル化酵素SETDB1の標的遺伝子を同定するために、クロマチン免疫沈降-sequence (ChIP-seq) を行った。SETDB1は転写因子C/EBPa遺伝子に結合し、H3K9トリメチル修飾を入れることにより転写を抑制し、下流のPPARgを介した代謝関連遺伝子の発現を抑制していることを突き止めた。すなわちSETDB1は脂肪細胞分化時の代謝変動のゲートキーパとして機能することを明らかにした。一方H3K9脱メチル酵素JMJD1Aを欠損させたマウスは肥満を呈する。褐色脂肪細胞におけるマイクロアレイ解析により、JMJD1Aの標的遺伝子候補としてミトコンドリア代謝遺伝子UCP1, Cpt1b, Cox7a1が明らかとなった。絶食・寒冷刺激時における翻訳後修飾解析を行ったところ、JMJD1AはプロテインキナーゼAによりリン酸化されることが明らかとなり、栄養環境に応答したエピゲノム制御にはJMJD1Aのリン酸化が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H3K9メチル化酵素SETDB1ならびに脱メチル化酵素JMJD1Aの機能解析により、これらヒストン修飾酵素がエピゲノムを変化させ代謝を制御することを解明したことから、本研究の第一目的である「エピゲノムによる代謝制御機構の解明」は達成された。細胞外フラックスアナライザーによる代謝プロファイルならびにメタボローム解析により、前駆脂肪細胞が脂肪細胞に分化する際には代謝スイッチが起こり、解糖系ならびにTCAサイクルの代謝物が顕著に増加することが見出した。ヒストン脱メチル化酵素の補酵素であるアルファケトグルタル酸が分化前後で顕著に増加していることから、細胞内代謝物がエピゲノムを制御する可能性が示唆された。したがって本研究の第二目的である「代謝物によるエピゲノム制御の解明」に向けて順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪細胞分化過程においてH3K9メチル化酵素SETDB1の活性制御機構を明らかにするために、翻訳後修飾解析、複合体解析、活性測定を行う。またH3K9脱メチル化酵素JMJD1Aによるエネルギー感知機構の詳細を理解するために、複合体解析、ゲノムワイド局在解析、ヒストン修飾解析を行う。細胞外環境の変化(低グルコース刺激)における細胞内代謝物とヒストン修飾の変化を、メタボローム解析とクロマチン免疫沈降により解析する。脂肪細胞分化過程における細胞内代謝物変化が、ヒストン修飾酵素活性に与える影響を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の実験は主に培養細胞を用いた系であり、研究費は主に消耗品(細胞培養器具、分子生物学試薬、生化学試薬、メタボローム解析試薬)の購入に使用する。また本研究で得られた成果は学会、ならびに論文で発表予定であり、研究費の一部は旅費等として使用する。
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