研究概要 |
本研究では、転写抑制のエピゲノムコードとして機能するヒストンH3の9番目のリジン (H3K9) に焦点をおき、(1)細胞が栄養環境に適応する際に起こるエピゲノムによる代謝制御、(2)代謝物によるエピゲノムのフィードバック制御を明らかにすることを目的とした。(1)H3K9メチル化酵素SETDB1はgene bodyのメチル化DNAを認識することにより、標的遺伝子に局在する可能性を見出した。この局在機構により、SETDB1は前駆脂肪細胞においてCebpaの転写を抑制し、脂肪細胞分化時の代謝変動を制御することが明らかとなった。一方、H3K9脱メチル化酵素JMJD1Aについて、褐色脂肪細胞においてChIP-seq・マイクロアレイ解析を行い、標的遺伝子としてAdrb1を同定した。前年度見出したJMJD1Aのリン酸化についてさらに解析を進め、リン酸化JMJD1AはSWI/SNF, PPARgと複合体を形成し、寒冷刺激に応答してクロマチン構造を変化させることにより、転写を促進する機構を見出した。 (2)前年度、脂肪細胞分化過程においてトリカルボン酸サイクル代謝物であるa-ケトグルタル酸が3倍増加することを見出したが、マイクロアレイ解析からイソクエン酸デヒドロゲナーゼ3 (IDH3a, b, g) 遺伝子の発現がa-ケトグルタル酸の増加に伴い急上昇することを明らかにした。IDH3bをノックダウンしたところ、Ppargならびに脂肪細胞分化マーカー (Fabp4, Adipoq, Cd36) の発現にはほとんど影響を及ぼさないにも関わらず、解糖系遺伝子 (Slc2a4, Hk2) の発現が低下し、脂肪蓄積が抑制された。
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