研究課題/領域番号 |
24710227
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
神吉 康晴 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (00534869)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / 転写因子 / 細胞分化 |
研究概要 |
マウスES細胞を分化誘導させ、VEGF(血管内皮増殖因子)受容体2(Flk、別名Kdr)陽性の中胚葉群をソート後、VEGFを48時間作用させることで血管内皮細胞を高い効率で誘導できる。この実験系において、ES細胞、Flkソート直後、VEGF刺激後6、12、24、48時間後のRNAを回収し、マイクロアレイ解析を行い、VEGFを作用させない群と比較して、有意に発現上昇する遺伝子群を経時的に抽出した。この中には、血管内皮細胞分化に必要であることが既に報告されているEtv2が含まれていることからも妥当な実験結果が得られている。特に早期に発現が誘導されてくる遺伝子は血管分化にとって重要であることが推測され、超早期群としてT, Etv2、早期群としてGata2, Fli1, Sox18等を抽出した。更に、上記分化系においてヒストン修飾抗体を用いたChIP-sequence解析を行った。アクティブなマークであるH3K4me3、抑制系マークであるH3K27me3修飾の両者が同時に入るbivalent geneは分化におけるマスター因子である可能性が高いことから経時的なbivalent geneの同定を行っている。上記マイクロアレイで抽出した遺伝子、及びbivalent geneの変動からGata2, Fli1, Sox7, Sox18といった遺伝子が協調的に血管内皮細胞を形成している可能性が示唆された。この可能性を検証するために、si-RNAを用いたノックダウン実験を行ったところ、4つの因子を阻害すると、有意差をもって内皮分化を阻害され、更に4因子を同時にノックダウンすると血管内皮細胞分化はほぼ完全に抑制されることを見出した。これらの結果は、特定の分化系において、遺伝子発現パターンとヒストン修飾変化から、マスター因子を同定する可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本申請書の研究目的は、血管内皮細胞分化におけるエピゲノム情報を取得すること、転写因子GATA2の役割を解析すること、血管内皮細胞分化におけるマスター因子を同定すること、である。当初の計画では初年度は、分化における経時的なマイクロアレイ解析を行い、ヒストン修飾抗体を用いてChIP-sequenceを行うことであった。平成24年度は実際にマウスES細胞からの血管内皮細胞分化系を立ち上げ、マイクロアレイ解析、ChIP-sequence解析を既に終えている。更に、それらデータを統合することで、転写因子GATA2以外にEts転写因子ファミリータンパク質であるFli1, Erg, Sox転写因子ファミリーであるSox7, Sox18を新たにマスター因子候補として同定した。更に、これら因子をsi-RNAを用いてノックダウンすることで、内皮細胞分化効率が下がることも見出した。以上の実験を平成24年度に完了したことにより、当初の計画以上に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は上記知見を更に発展させ、ヒストン修飾抗体を用いたChIP-sequenceをより詳細なタイムコースで行う。具体的には、H3K4me3, H3K27me3修飾のみならず、H3K4me1, H3K27ac, 及びFAIRE-seqを行う。このことにより、内皮細胞が構築されて行く際の機能的なエンハンサーを同定することが期待できる。更に、本申請書の目的の一つである転写因子GATA2については、成熟血管内皮細胞ではその結合領域がほとんど非遺伝子部分であることからも、分化においても非遺伝子部分を制御しているという仮説を立てている。従って、上記仮説を検証するために、非遺伝子部分のエンハンサー、及び、non coding RNAを網羅的に解析し、GATA2のChIP-sequenceデータと統合する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究における実験はマウスES細胞を用いる。細胞の培養には増殖因子を含む専用の培地が必要であり、特に使用頻度が高い。また、クロマチン免疫沈降に用いるビーズ等の試薬、各種ヒストン抗体が必要である。更に本研究で用いるillumina社のsolexa高速シークエンサーに検体をかけるためには、特にフローセルと呼ばれるガラス表面に結合させるためのリンカー結合の試薬、またフローセル自体を購入する必要がある。 また、ES細胞分化に関して連携研究者の所属する京都大学とデータ及び実験の相談をするための打ち合せ費用も計上した。 本年度は最終年度にあたり、上記にあるように、分化系において経時的なヒストン修飾変化を解析する。従って、結果を発表するための学会費用、出版費用も計上している。
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