本研究では、大腸菌の遺伝暗号表を改変し、TAGコドンの割り当てを廃止し、AGGコドンを非天然型アミノ酸に割り当てることを目指した。以前の研究において、わずか10カ所のゲノム改変によって、TAGを終止コドンからセンスコドンに再指定した。同様に、センスコドンを別のセンスコドンに再指定することができれば、遺伝暗号は今日においても進化途上であると言える。 目的を達成するために、3つの課題を解決した。1つ目はゲノム改変技術であり、初年度の成果によって、突然変異の蓄積を避けつつ、目的のコドンを同義置換する技術を確立した。従って、95カ所のTAGコドン、27カ所のAGGコドン、6カ所のAGAコドンを、大腸菌ゲノム上から除去した。2つ目の課題は、TAGを認識するRF1、AGGを認識するtRNAArgの操作であった。大腸菌の増殖を阻害することなく、RF1をノックアウトすることに成功した。また、tRNAArgの発現量を、痕跡レベルまで減少させることに成功した。従って、TAGは何も意味しないコドンとなり、AGGはほとんどアルギニンとしての割り当てを喪失した。3つ目の課題は、AGGに非天然型アミノ酸を割り当てる技術開発である。AGGにホモアルギニンを割り当てた所、大腸菌の増殖を阻害するどころか、アルギニンの代わりとして、増殖をサポートすることが分かった。6つの必須遺伝子における11カ所のAGG部位に関して、ホモアルギニンとアルギニンは互換性があると判明した。つまり、終止コドンのみならず、センスコドンに関しても、最小限のゲノム改変によって遺伝暗号表が変わり得る。遺伝暗号はやはり、今なおフレキシブルである。
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