研究課題/領域番号 |
24710249
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
土川 博史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30460992)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スピロリド / スピロアセタール / 全合成 / 構造決定 |
研究概要 |
スピロリドC (SPX C) は、アセチルコリン受容体に結合して強力なマウス急性致死毒性を引き起こす興味深い海産毒であるが、その詳細な作用機構はおろか未だに全絶対立体配置も決定されていない。そこで本研究では、世界初となる全合成を達成することで完全立体構造を決定することを目的とし、本年度は特にSPX Cを特徴づける6,5,5-ビススピロアセタール部分の高立体選択的構築を目指した。その戦略として環化前駆体の両端をリンカーで架橋し、配座制御による立体選択的スピロ環化反応を検討することとした。すなわち天然物の員数やMD計算の結果を考慮し、望む立体異性体が熱力学的に有利になると予想される化合物をデザインし、その前駆体からの環化反応を検討した。 合成にあたってまずC10-C24炭素骨格の効率的な構築法の確立を目指し、17,18位でのカップリングにより合成することを検討した。すなわち市販のプロパンジオールからエノン体(C10-C17)、 市販のブテノールからアセチレン体(C18-C24)をそれぞれ合成し、これらのカップリング反応を種々検討したところ、ヨウ化銅を触媒とした場合に反応が進行することを見出し、目的のカップリング体を高収率で得ることに成功した。続いて両末端の1級アルコールを順次脱保護してリンカーを導入し、オレフィン部をジケトンに酸化することで、架橋環化前駆体の合成を達成した。次に鍵反応となる脱シリル化、スピロ環化反応を検討した。環構造による立体障害およびトリケトン部分の不安定性により、シリル基の除去は困難であったが、条件検討の結果70%フッ化水素ピリジンを用いたときにのみ反応が進行することを見出した。主生成物を構造解析した結果、目的の立体化学を有する異性体であることを確認し、これにより前例の無いSPX Cの6,5,5-ビススピロアセタール部分の高立体選択的構築に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主たる目的は、SPX Cを特徴づける2つの鍵ユニットの効率的な合成法の確立を基軸とし、世界初となる全合成を達成することで完全立体構造の決定を行うことである。今年度において、全合成する上で困難が予想された6,5,5-ビススピロアセタール部分の高立体選択的構築を達成したので、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に鍵ユニットの一つである6,5,5-ビススピロアセタール部分の構築に成功したので、平成25年度は、もう一方の鍵ユニットであるスピロイミンユニット(A,E環)の効率的合成をまず第一に検討する。合成戦略としては、7員環ラクトン構造に由来するexo-選択性を期待し、不斉金属触媒を用いたエナンチオ選択的分子内Diels-Alder反応を行うことで、7位、29位の立体化学を構築する予定である。さらに4位にビニル基を導入後ケトンの不斉還元により、相対配置が未決定である4位を確実に構築し、目的とする鍵フラグメントを合成する。 続いて6,5,5-ビススピロアセタール部分についてもさらにC24位からアルキル化等で3炭素増炭し、その後、合成したスピロイミンユニットとカップリング反応を行う。現在のところ9位で野崎-桧山-岸反応を利用してアルデヒドとカップリングさせた後、27位の塩素をヨウ素に置換し、Barbier型の反応を行うことで環化させる予定である。この際、10位のヒドロキシル基が望まない選択性で得られる恐れもあるが、その場合は酸化後CBS還元等で望む立体化学に変換する予定である。続いて4位ヒドロキシル基にエノンユニットを導入した後、RCMを行うことで不安定なγ-ブテノリド環を構築し、最後に脱保護、スピロイミン形成によりSPX Cの全合成および全絶対立体配置の決定を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度も引き続き天然物の多段階合成が主たる目的であるため、それに伴う大量合成は避けられない。すなわち化合物の合成を行う上で多量の試薬類・溶媒・ガラス器具、さらに精製用のHPLCカラムが必要であり、消耗品費として年間1,000千円程度使用する予定である。また、本年度は2回の成果発表(国内)および学会誌投稿も計画しており、1,00千円程度使用する予定である。
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