研究概要 |
スピロリドC (SPX C) は、アセチルコリン受容体に結合して強力なマウス急性致死毒性を引き起こす興味深い海産毒であるが、その詳細な作用機構はおろか未だに全絶対立体配置も決定されていない。そこで本研究では、世界初となる全合成を達成することで完全立体構造を決定することを目的とした。本年度はSPX Cを特徴づけるスピロイミン部分(A,E環)の選択的合成法の確立を目指し、立体選択的なDiels-Alder反応を開発することを目的とした。 まずジエン基質として、後のB/C/D環との連結およびF環の構築を簡便にすべく、2位シリルエノールエーテル化、または直接シリル化したジエンインを用いることとした。またジエノフィルとしてはα-エキソメチレンカルボニル基を有する7員環化合物を用いることで、望む位置およびexo選択性を制御することを考えた。 ジエン基質については、2,4-ヘキサジインのE-選択的ヒドロスズ化を鍵反応とし、続くStille カップリング、配位子交換を経て、トリエトキシシリルジエンインおよびシラトランジエンインを合成した。TBSエーテルジエンインについては文献の方法に従い調製し、計3種のジエンイン基質を合成した。一方ジエノフィルについてはまずはモデル基質として不斉ジメチル構造を持たない7員環ラクトンおよびラクタム化合物を合成した。 合成した種々のジエンインおよびジエノフィルを用いてDiels-Alder反応を検討した結果、ジエノフィルとしてCbz基を有するラクタムを用いた場合に望む反応が進行することを見い出した。すなわち、2-TBSエーテル体をBOX-銅錯体触媒存在下室温で15時間反応させたところ、望むexo-環化付加体を高収率で得ることに成功した。また、γ-ブテノリド環の導入がより容易となるシラトランジエンインを用いた場合も、低収率ながら目的とする環化付加体を得ることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
一昨年度に鍵ユニットの一つである6,5,5-ビススピロアセタール部分の構築に成功し、昨年度に6,7-スピロイミンの効率的合成のための選択的Diels-Alder反応の開発に成功した。そこで最終の平成26年度は、まずは実際のジエノフィル基質を用いてエナンチオ選択的Diels-Alder反応を行い、スピロイミンユニット(A,E環)の効率的合成を行う。さらに4位のシリル構造を足掛かりにしてエノン構造を導入後、ケトンの不斉還元により、相対配置が未決定である4位を確実に構築し、目的とする鍵フラグメントを合成する。 続いて6,5,5-ビススピロアセタール部分についてもさらにC24位からアルキル化等で3炭素増炭し、その後、合成したスピロイミンユニットとカップリング反応を行う。現在のところ9位で野崎-桧山-岸反応を利用してアルデヒドとカップリングさせた後、27位の塩素をヨウ素に置換し、Barbier型の反応を行うことで環化させる予定である。この際、10位のヒドロキシル基が望まない選択性で得られる恐れもあるが、その場合は酸化後CBS還元等で望む立体化学に変換する予定である。続いて4位ヒドロキシル基にエノンユニットを導入した後、RCMを行うことで不安定なγ-ブテノリド環を構築し、最後に脱保護、スピロイミン形成によりSPX Cの全合成および全絶対立体配置の決定を行う予定である。
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