本研究は、微生物生産物として我々の発見した新規化合物トリプロペプチンC (TPPC)の作用機序を明らかにすることを目的に行なった。TPPC はマウスのメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)全身感染モデルにおいて、特効薬であるバンコマイシンよりも優れた治療効果を示したため、臨床応用が期待されている。TPPC はいずれの既存抗MRSA薬とも交差耐性を示さず、新規な作用機序を持っていることが示唆され、また実験室レベルの検討で耐性菌が極めて生じにくいというデータがあるため、作用機序を詳細に解析することは、新薬創製において重要な知見が得られるものと考えている。 我々はこれまで、TPPCが細胞壁合成の重要な中間体であるウンデカプレニルピロリン酸と相互作用することを明らかにしてきた。そこで、MRSAに対するTPPCと標的分子の相互作用様式を固体NMRにより分子レベルで明らかにするべく、そのプローブとなりうるTPPC の13C置換体、重窒素置換体ならびにフッ素導入体の発酵生産を試みた。培地検討ならびに添加する前駆体の検討を経て、13C(U)グルコース、重窒素置換アンモニア、ならびに4ーフルオロプロリンを前駆体とすることで目的のプローブを生産した(論文未報告)。現在共同研究先にサンプルを送付し解析を進めているところである。相互作用部位の解明などを進めたい。 このほか、表面プラズモン共鳴解析や等温滴定型カロリメーターを利用して、 TPPCと標的分子であるプレニルピロリン酸の生物物理学的相互作用解析を行い、結合定数を明らかにした。本結果に関しては、日本蛋白質化学会にて報告した。現在、多面的な相互作用の検討を進めている。 この他、TPPCと他剤との併用でMRSAに対して優れた相乗性が認められることを見出し、特許出願した。
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