GPIアンカーは特徴的な糖鎖構造をもち、哺乳動物、酵母、菌類や病原性原虫類に広く存在するが、その機能はアンカーとしてタンパク質を繋ぎ止めておく役割以外いまだ不明である。申請者は、化学生物学的アプローチと構造生物学的アプローチを併せてGPIアンカーの立体構造を解明し未だ不明な機能にせまることを目的に研究を遂行した。 2013年度は、GPIアンカー糖鎖の化学合成を継続して行い、四糖ならびにGPIアンカー糖鎖の糖鎖主骨格である五糖ユニットの合成を達成した。得られたGPI糖鎖の立体構造はその生理機能と深い関連があると予想しており、その主骨格の立体構造をNMRを用いて解析した。 2012年度に引き続き、マンノース三糖とグルコサミンからなる四糖骨格の2箇所あるいは3箇所のマンノースのヒドロキシ基へエタノールアミンユニットを導入した。続いて脱保護をおこない、目的の四糖ユニットの合成を達成した。この合成を基盤として先の四糖にイノシトールを有する五糖ユニットを合成した。まずグルコースからFerrier反応を経て合成したイノシトール保護体に、グルコサミンを導入した。反応は立体選択性の完全な制御が困難であったが、2:1の選択性でα-体を優先的に得ることができた。ここで得られた二糖ユニットを受容体へと導いたのち、先に合成したトリマンノース供与体と縮合して、目的の五糖骨格を得た。得られた五糖骨格へエタノールアミンユニットの導入をおこない、続く脱保護を経て、目的の五糖ユニットの合成を達成した。 合成したGPI糖鎖の立体構造をNOEを用いて解析した。選択励起パルスを用いた一次元のNOESY測定により、高感度かつ短時間でNOE相関シグナルのセットを取得した。その結果、特に非還元末端側のマンノースの回転が制限されて回転異性体が存在している可能性を示唆した。
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