研究概要 |
クロマチン修飾は、適切な時に適切な場所で遺伝子のONとOFFを制御し、細胞運命を決定する。人工多能性幹細胞(iPS細胞)の技術により、再生医療における様々な応用が提案されているが、安全な臨床利用は実現していない。これを克服する新規の化学的アプローチとして、我々は位置特異的にクロマチン修飾することで細胞運命をコントロールする化合物、SAHA-PIPを開発した。SAHA-PIPは、配列特異的なピロールイミダゾールポリアミド(PIP)と、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤SAHAで構成されている(ChemBioChem, 2011, 12, 2822)。 科研費助成期間において、我々は4つの研究論文と3つの総説により、クロマチン修飾を制御する小分子の発展の可能性を示してきた。まず、異なった化学構造のSAHA-PIPを合成することでSAHA-PIPの効果の向上が可能であることを示した。(Bioorg. Med. Chem., 2012, 20, 2656) さらに、マウス繊維芽細胞においてわずか24時間でOct4を含む多能性遺伝子の10倍以上の発現上昇を誘導し、細胞の初期化を開始させることのできる、δという化合物を設計した(Sci. Rep., 2012, 2, e544)。 また、新たな蛍光分子をPIPに結合させることにも成功した(Bioorg. Med. Chem., 2013, 21, 852)。さらに、HDAC8特異的阻害剤のJAHAや、DNAメチル基転移酵素(DNMT)阻害剤のプロカインをPIPに結合させて新しいタイプの分子を開発し生物活性を調べた(投稿中)。上記の成果に基づき、今後はiPS細胞の臨床利用に向けて、細胞運命を変化させる化合物を設計していくことを目標としている。
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