研究概要 |
特定の遺伝子の発現を上昇させる「人工遺伝子スイッチ」として我々はSAHA-PIPという小分子化合物を開発した。SAHA-PIPはDNAに配列特異的に結合するピロールイミダゾールポリアミド(PIP)とヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるSAHAを結合させた分子である。SAHA-PIPのライブラリを合成しマウスの体細胞に投与した結果、δとよばれるSAHA-PIPが多能性関連遺伝子の発現を促進させることがわかり(Sci. Rep., 2012)、またSAHA-PIPの誘導体も合成・評価した(Bioorg. Med. Chem., 2013, 21, 4201)。 次にヒト体細胞を用いて、SAHA-PIP Kが生殖細胞に関与する遺伝子群を発現上昇させることを示した (Angew. Chem. Int. Ed., 2013, 52, 13410、「HOT PAPER」に選定)。さらに32種のSAHA-PIPをマイクロアレイ解析し、個々のSAHA-PIPがそれぞれ別々の活性を示して肥満に関与するKSR2遺伝子など組織や疾患に関わる遺伝子を発現上昇させたことを報告した(Sci. Rep., 2014, 2, e3843)。この研究成果は様々なポータルで取り上げられた。 また、本研究に関連して、3つの総説も発表した(Chem. Biol. 2013, 20, 1311 [Cell Press, Featured Review]; J. Mol. Cell Biol. 2013, 5, 354 and Clin. Transl. Med. 2014, 3, 6)。 以上まとめると、我々の開発した新規クロマチン制御分子は細胞リプログラミングに関連する遺伝子ネットワークを調節できることが示唆された。
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