RNA研究の活発化に伴い,RNAを標的とした分子設計指針の確立が期待されている。RNAはヘアピンループやステムループ等のRNAに特有な高次構造を有し,これらがタンパクによる認識部位となる。しかし,小分子設計の視点では,多様性に富むRNAの構造をどのような分子が認識でき,どのような結合様式があるのかといった分子設計には不可欠となる基本情報が不足している。それゆえに,従来の創薬研究で利用されているタンパクを標的とした分子設計の知見を活かせていない。そこでRNAステムループに特異的に結合する分子に必要とされる構造要件を抽出するため,医療応用が注目されているマイクロRNAのなかでも,心疾患に関与していることが明らかにされているmiRNA29aに着目した。miRNA29aの生合成前駆体であるpre-miR29aに結合する小分子はmiRNA29aの機能抑制に利用でき,マイクロRNA研究での利用が期待されているためである。 pre-miR29aステムループを標的として設計した,8位にヘテロ環を導入したアデニン誘導体を合成した。合成した化合物ライブラリーは,先に研究室で開発していた蛍光指示薬を用いた蛍光ディスプレイスメントアッセイにより評価した。アデノシン8位に導入したヘテロ環の種類によって蛍光回復率に差が見られ,pre-miRNA29aに結合する候補化合物が合成した化合物ライブラリーの中から見つかった。 蛍光ディスプレイスメントアッセイにより得られた候補化合物とpre-miRNA29aとの定量的な結合解析を行うために,表面プラズモン共鳴(SPR)イメージング法を利用した定量的分子間相互作用解析を実施した。具体的には,5’位をビオチン標識したRNAを,SAセンサーチップ上に固定化した。さらに,候補化合物との相互作用解析を実施することにより,化合物構造がRNA配列に与える相関関係を考察した。
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