前年度までの研究において、IP3R(Inositol trisphosphate receptor)の新規制御分子であるKRAPの分子間相互作用機序の理解と、その機序に基づいた癌制御法開発に関する取り組みを展開してきた。特にKRAPのN末端部位とIP3RのN末端部位との相互作用を阻害する化合物の探索に力を注いできた。前年度においては唯一ケミカルライブラリーで候補として上った化合物に関して阻害能の検証を開始し、両者蛋白を強制発現させた培養細胞レベルでの会合阻害を指標としたアッセイでネガティブな結果を得ていた。最終年度において、さらに検証を加えるべく、内在性蛋白間の相互作用阻害アッセイを行ったがネガティブな結果に変わりは無かった。化合物の細胞透過性や培養下での安定性など物性が不明であり、解決すべき問題は残っている。また、スクリーニングに使用したプローブ蛋白は大腸菌で作製したリコンビナント蛋白であり、哺乳類由来の蛋白と立体構造が異なることが予想され、根本的な方法論の見直しが必要かもしれない。また化合物ライブラリーの種類・数も網羅されたとは言えない。 前年度において副産物として得られたKRAPホモログの同定は、本研究における特筆すべき成果である。今年度においても新たな知見として、同分子が容量依存的に細胞外から細胞内へ流入するカルシウムイオンによってリン酸化される現象を明らかにした。さらに、リン酸化の反応はKRAPにおいても同様に認められ、癌細胞におけるKRAPでの分子動態と、リンパ球におけるKRAPホモログの分子動態に共通項を見出した。
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