研究課題/領域番号 |
24710269
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
根岸 淳二郎 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (90423029)
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キーワード | 生物多様性 / 水生生物 / 河川 / 保全 / 生態系管理 / 湧水 |
研究概要 |
第一に、十勝川水系札内川および戸蔦別川(山地由来の非湧水河川)およびその近隣の小支流(湧水河川)において、水質・水温・流況および羽化昆虫量の季節的変動を明らかにした。湧水河川は安定した流況および水温変動を通年で示し、非湧水河川とは異なった。それに、応じて、羽化昆虫量のピークタイミング等は両河川タイプ間で異なった。湧水河川では、明瞭な季節ピークが見られず、比較的長期にわたり羽化が見られた。また、種組成も大きく異なった。さらに、羽化昆虫の炭素安定同位体比を計測したところ、湧水河川は非湧水河川に比較して、より多くの炭素を系外からの移入(落葉リターなど)に依存してる状況が示された。したがって、湧水河川の存在は、景観スケールで、陸域へ供給される炭素量および質の空間的な変異を生じる大きな要因となっていることが示唆された。 第二に、石狩川本流近傍に存在する水域(たとえば三日月湖)を対象に、水草の繁茂面積を決定する要因を明らかにした。湧水や非湧水という水の起源の際が水草繁茂に影響をあたえると予想したが、結果的にそれらの影響は無視できるほど小さかった。一方で、水域の水底地形(これは各水域の形成過程の差異をある程度反映したものであるが)が水草繁茂面積の主要な決定要因となっている 第三に、中部地方濃尾平野における農業用排水路網を対象に、希少性二枚貝を対象として、その生息有無を決定する要因を特定する試みを行った。湧水を含めた要因の影響をより高精度で検証するために、対象となる水路の景観構造による差異を取り除く作業を行った。これにより、開発地(非農作地)の割合が周囲景観に少ない水路に二枚貝が多く残存していることが明らかになった。今後、その生息に湧水・非湧水といった生息場条件がどの程度係わるのかを検証していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度には、十勝平野の異なる流域を対象にして、同様の傾向を水生昆虫の幼虫ステージに対して示した。本年度の成果により、そのような差異が陸域へ供給される羽化昆虫の挙動にまで波及的に影響することが示されつつある。また、予想と合致しない傾向、すなわち、生態系タイプによっては湧水寄与の影響はあまり大きくない、も見出されている。これは、新たな研究仮説の創出につながると考えられ、発展性のある健全な研究経過の表れである。総じて、当初の予定通り、計画した研究活動が実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの研究により、羽化昆虫の季節消長が湧水寄与の程度に応じて河川タイプ間で異なることを示した。この傾向には、構成種そのものがことなるという事、あるいは、同種が成長パターンを変化させている事、の大きな二つの理由が考えられる。今後は、それら要因の相対的な重要性を定量化すると共に、陸域の捕食者に羽化昆虫量の変動がどのような影響を及ぼすのかにも注目して研究を進めたい。また、湧水の生物多様性への重要性が対象種・スケール・地域によって異なるということ定量的に示したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
実際には、H25年度の支出収支はそろっている。 該当しない。
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