本年度の研究活動の主要部分は、十勝川水系札内川近辺の2タイプの河川(湧水河川および非湧水河川)を対象に実施した。タイプ間で、流量変動および水温変動が異なり、湧水河川で相対的に両者とも小さかった。また、日平均水温は、多くの水生昆虫の成長速度に影響を与えるが、羽化タイミングの決定に特に重要な冬季および春季の積算水温は、湧水河川で高い傾向を示した。おもに水温の影響を受けて、水生昆虫の一部の分類群について、その羽化タイミングが早期化した。また、両河川タイプは、河床材料サイズや流速などの多くの物理環境の差異に起因して、水生昆虫の群集構造が大きく異なった。羽化昆虫の定期調査から把握した群集構造の差異によると、両タイプでは局所スケールの分類群多様性は同程度であるが、構成分類群の一部が異なり、これに起因して、両タイプが存在することで、当該地域の水生昆虫群集の総分類群多様性は比較的高く維持されていることが示された。一方で、水同位体比の分析より、湧水河川は、非湧水河川が伏流し湧出したもの、あるいは、低地への降水が湧出したもの、とその起源は異なるが、流量や水温環境特性は、同様であった。このことは、湧出水の地下流入までの水文過程よりも、地中にはいり湧出するまでの水文過程が、湧水河川の水温や流量特性の決定に重要であることを示唆した。
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