研究課題/領域番号 |
24710272
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
菊池 夢美 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (40586020)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | バイオロギング / 海牛類 / マナティー / 摂餌 / 行動 |
研究概要 |
熱帯地域で絶滅が危惧されている草食性水生ほ乳類マナティーを対象に,保護,飼育個体の野外放流後の野生への適応を評価するため,動物搭載型の行動ロガーおよび音響ロガーを用いて下記の実験を実施した.1)餌を食べる音から摂餌行動を特定する手法の確立,2)野外放流個体の摂餌行動の特定,3)マナティーの活発度の新たな指標を提案した.1)音から摂餌行動を特定する手法については,ブラジルの国立アマゾン研究所(INPA)の飼育アマゾンマナティーを対象に音響ロガーを装着し,数種類の餌植物を与えて実験を行った.その結果,摂餌音の検出率は79%,誤検出率は7%以下と精度の高い抽出が可能であった.また,植物種によって咀嚼の早さが異なる傾向が明らかとなった.次に,本調査では野生に近い環境で慣らしてから実際の川へ放流するソフトリリーシングを採用し,INPAで飼育されていた飼育個体2頭を半野生の湖に放流して2)摂餌行動の特定を試みた.1頭において,放流14時間後の夜9時から摂餌音が録音されており,湖での摂餌が確認された. さらに,メキシコのタバスコ大学の協力を得て,カリビアンマナティー保護個体1頭を対象に,音響ロガーと行動ロガーを同時に装着して3)活動量と鳴音頻度の関係を調べた.その結果,活動度が高い場合に鳴音を多く発する傾向がみられた.マナティーは母子間のコミュニケーションとして鳴き交わすことが知られているが,実験個体は1頭のみで1年半,将来的な野外放流を見越して人間の影響をできるだけ与えない環境で飼育されていた.鳴音の役割についてはさらなる検証が必要であるが,鳴音が活動量の指標として利用できる可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
摂餌音よりマナティーの摂餌行動を調べる手法の開発は順調に進み,半野生の湖へ放流した個体より摂餌行動を特定することに成功した.当初の研究計画では,飼育マナティーをアマゾン川へ放流することで野生への適応評価を行うことを目指していたが,2012年にはソフトリリーシング方式を採用したため,野外放流は行わなかった.ソフトリリーシングとは,保護,飼育個体をできるだけ野生に近い環境で一定期間慣れさせてから野生に戻すものであり,野外放流後の生残率を高めるのに重要であると考えられる.本研究においては,雨期にアマゾン川が氾濫して形成された湖を柵で囲うことでマナティーの移動を制限し,半野生の環境を整えた.この半野生湖にはマナティーの主な餌である浮き草類が自生しているため,人間が餌を与える必要はない.ここに機器一式を装着した2頭のアマゾンマナティー保護個体を放流し,1頭より餌植物を食べる音から摂餌行動を確認することができた.現在,半野生湖には計5頭の保護個体がソフトリリーシングされており,野外放流に向けて環境に慣らされている.放流時期はアマゾン地域の雨量が増加し始める乾期の終了時期を予定しており,研究計画を遂行するための準備は整っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,アマゾンマナティーの野外放流後の適応評価を目指しており,世界的な希少動物である本種において,放流後の生残率を高めることは最重要事項である.放流成功には,健康状態の良い個体を選別することが必要である.次回の野外放流までの間に,半野生湖に放流したマナティーを対象に健康状態を詳しく調べて放流個体を決定する.そして,雨期と乾期で川の水位が数十メートル近く変化し,植物種の増減が激しいアマゾン地域においては,放流時期および場所の決定が生残率に大きな影響を及ぼす.本研究では,アマゾン川の水位が上昇し始める乾期の終わりを予定時期としている.この頃から餌となる植物が増加し始めることから,放流後の摂餌が容易になると考えている.そして,アマゾン川の支流で川の流れが少ない場所に餌植物が多いことがすでに報告されていることから,支流への放流を予定している.近くに人家の集落などが無く,雨期と乾期で水位が変化した際にも湖ないし川として残り続ける場所を探す.これまでにいくつかの候補地が挙げられており,現在慎重に検討している.放流時には,マナティー尾びれベルトを使用して,そこにVHF発信器,音響ロガーおよび行動ロガー一式を取り付ける.切り離しタイマーによって設定時刻に機器一式がベルトから外れるようにし,VHF発信器からの信号を便りに水面に浮いている機器を回収する.本研究では,流れが少ない支流で調査を行なうため,機器の回収が比較的容易である. また,今後の計画として,保護,飼育環境が個体に及ぼす影響を調べるために,野生個体と飼育個体の行動比較を実施する.乾期にアマゾン川の水位が下がる際に,アマゾンマナティー野生個体は水の残る場所に閉じ込められることが知られている.これまでの現地調査で,すでに乾期に野生個体が多数滞在する場所も特定できた.この野生個体を対象に行動調査を実施する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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