本研究では赤土や生活排水の流入,また公共工事の影響など琉球列島の人為的撹乱を受けやすい礁池の造礁性サンゴ類を対象として,1)繁殖様式の解明と,2)DNA塩基配列情報からの集団遺伝学的解析を行った。それらを基に移植に適している時期や,「人為的撹乱を起こすことのないような」礁池のサンゴ移植の最適モデルを提唱することを目的としている。対象種は主に沖縄島の礁池に普通に見られる種のヤッコアミメサンゴ(Psammocora contigua),シコロサンゴ(Pavona decussata),トガリシコロサンゴ(Pavona divaricata)とした。 沖縄島北部に同所的に生息するシコロサンゴとトガリシコロサンゴの組織切片と直接観察から両種の有性生殖期を明らかにした。トガリシコロサンゴは夏季に,シコロサンゴは初冬に産卵が見られた。沖縄周辺域で初冬に産卵するサンゴの初報告である。沖縄島中部に生息するシコロサンゴは夏季の4ヶ月ほど産卵が見られた。放卵放精型のサンゴでこれだけ長期間産卵する例は珍しい。 上記3種は沿岸部礁池に大きな集団として見られるが,破片化による無性生殖と思われる群体も多くみられる。したがって,移植に適している種と考えられているが集団内・集団間の遺伝的多様性は不明であった。種子島,沖縄島,宮古島,西表島の合計11地点から採集したサンゴ3種425個体のITS領域の解析から,生息地により遺伝的多様性の低い集団と比較的遺伝的交流がみられる集団があることが分かった。 公共工事等の影響を考慮したサンゴの移植リストに掲載されることがあるこれらの種は,初冬を含む長い繁殖期と場所によってはかなり遺伝的多様性の低い集団であることから,移植の時期や移植先の選定には,これまで提唱されてきたガイドラインだけでは不十分であることが示唆された。
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