研究課題/領域番号 |
24710281
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
根本 達 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40575734)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 南アジア研究 / 文化人類学 |
研究概要 |
本研究は、現代インドのナーグプル市において仏教への改宗運動に取り組む仏教徒(「不可触民」)たちと、仏教へ改宗した後にキリスト教へ再改宗した「改宗キリスト教徒」を研究対象とし、後期近代において勃興する排他的な宗教間対立を逃れ、宗教融和へ向かう脱近代的な生き方を明らかにするものである。この目的を達成するため、平成24年度は南アジア研究、人類学、歴史学、差別論、モダニティ論にわたる学際的な先行研究のレビューとともに、ナーグプル市において計2回の人類学的調査を行った。1回目の調査は平成24年8月17日から9月5日まで実施した。この調査では、ナーグプル市内にある仏教とキリスト教の宗教施設を訪れ、特にキリスト教の聖職者へのインタビュー、教会が発行している資料の収集、また、各宗教信者の宗教実践について参与観察を行った。これに加え、ナーグプル市郊の農村地域における仏教徒団体(NGO)の取り組み(学校運営や女性リーダーの育成など)について調査を開始した。次に、2回目の調査は平成24年11月22日から12月9日まで行った。この調査では、仏教とキリスト教に加え、ナーグプル市内のヒンドゥー教、イスラム教、シーク教、ジャイナ教の宗教施設を訪れ、各宗教信者の宗教実践について参与観察を行った。さらに、ナーグプル市内だけでなく、近郊の農村地域における仏教徒組織の取り組み、プーナ市における仏教徒と他宗教信者の宗教社会運動、ムンバイ市の仏教徒によるアンベードカル入滅日の式典について調査を行った。この計2回の調査により、(1)仏教への改宗運動の中心地ナーグプル市における各宗教の歴史と現状、(2)仏教徒と他宗教徒、特にキリスト教徒との協調・対立関係、(3)ナーグプル市、プーナ市、ムンバイ市における仏教徒団体の活動、(4)マハーラーシュトラ州の主要都市をつなぐ仏教徒たちのネットワークについて考察することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、(1)仏教徒共同体とキリスト教徒共同体との協調・対立関係について歴史的に検討すること、(2)差別に抗する被差別者(「不可触民」)の中で、さらに被差別者(「改宗キリスト教徒」)が創出される差別構造を検証すること、(3)両宗教の境界に立つ「改宗キリスト教徒」による日常的実践に着目し、その脱近代的な生き方を映像として記録することの3点である。平成24年度は、平成25年度に実施予定であるミクロな調査(研究目的(2)および(3))に移行するため、特にナーグプル市内の各宗教共同体の基礎的な情報を得ること(研究目的(1))を主要な目的とした。現地ではキリスト教を中心として、仏教以外の宗教施設も訪問し、インタビューや参与観察を行い、その結果、ナーグプル市内の全体像を把握することができた。これに加え、ナーグプル市以外にもプーナ市とムンバイ市において現地調査を実施し、マハーラーシュトラ州の主要都市をつなぐ仏教徒たちのネットワークについて考察することができた。これらの現地調査では、Shrikant Ganvir氏(デカンカレッジ助教)とNiraj Bodele氏(ナーグプル大学助教)を調査補助兼通訳として雇用した。両者とも英語、ヒンディー語、マラーティ語が堪能であり、ナーグプル市に加え、プーナ市やムンバイ市の宗教組織や施設になどについて見識が深く、調査地の選定や通訳において重要な役割を果たした。また、学校運営や女性リーダー育成など、ナーグプル市近郊の農村地域における仏教徒団体(NGO)の取り組みについても調査を開始することができた。今後、特に「市民社会」という観点から人類学と政治学の先行研究を活用し、両学問分野の視点を取り入れるかたちで学際的な研究を始める予定である。今回の調査で現地NGOと良好な関係を構築できたことは新たな研究の発展につながるものである。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、(1)差別に抗する被差別者(「不可触民」)の中で新たに被差別者(「改宗キリスト教徒」)が創出される差別構造を検証すること、(2)両宗教の境界に立つ「改宗キリスト教徒」による脱近代的な生き方を映像として記録することを目的とする。まず、南アジア研究や人類学、モダニティ論といった広範囲にわたる先行研究のレビューとともに、「市民社会」研究の視点を取り入れるため、政治学分野の先行研究にも目を向ける。次に、平成24年度の現地調査の結果を再検討し、第三次・第四次現地調査の計画を練り直す。例えば、現在の課題の一つとして調査地の選定が挙げられる。これまで仏教徒と「改宗キリスト教徒」の関係を調査するにはナーグプル市内のオレンジ市場地区が適切と考えていたが、仏教徒組織の内部分裂などから同地区の仏教徒たちの活動がほぼ停止状態に陥っていることが分かった。この現状を踏まえ、調査補助兼通訳者とともに新たな調査地を選定中である。これらの再検討を経た上で現地調査を再開する。平成25年度の調査は、インタビューや映像撮影など、よりミクロでボトムアップの視点に立った調査となる。調査期間は、平成25年9月(2週間)と平成26年3月(2週間)に合計1カ月間となる。平成24年度と同様、ナーグプル市における現地調査では、現地に滞在する仏教僧・佐々井秀嶺師の支援を受けるとともに、現地の研究者2名(Ganvir氏、Bodele氏)に引き続き調査補助兼通訳を依頼する。また、デリーのインド統計局において国勢調査資料、また、ナーグプル市やムンバイ市において最新の地図などを購入する。その後、2年間の研究成果を取りまとめ、映像資料を用いながら、学術誌(『文化人類学』、『南アジア研究』、『筑波大学地域研究』など)や学会(文化人類学会や南アジア学会など)において研究成果を発表することを目指していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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