本研究では現代インドのマハーラーシュトラ州ナーグプル市において仏教への改宗運動に取り組む仏教徒(「不可触民」)と、仏教からキリスト教へ(再)改宗した「改宗キリスト教徒」を研究対象とし、後期近代において発生する排他的な宗教間対立を逃れ、宗教融和へ向かう脱近代的な生き方を考察した。平成25年度は、平成24年度の現地調査の成果を見直した後、第三次・第四次現地調査を実施した。 第三次調査は、2013年8月17日から9月15日までナーグプル市及び近郊農村で行った。まずナーグプル市では仏教徒の宗教実践への参与観察、仏教徒と「改宗キリスト教徒」、仏教僧佐々井へのインタビューを実施し、8月30日の佐々井生誕祭に参加した。次に近郊農村において仏教徒組織の取り組み(学校運営、飲料水浄化プロジェクト)について現地調査を行なった。 第四次調査は2014年2月26日から3月14日までナーグプル市で実施した。第三次調査を継続し、仏教徒の宗教実践への参与観察、仏教徒と「改宗キリスト教徒」、仏教僧佐々井へのインタビューを行なった。また、近郊農村で学校運営や飲料水浄化プロジェクトに取り組む仏教徒活動家へのインタビューを実施した。これらの調査では現地の研究者が調査補助兼通訳を担当した。 以上の調査を通じて (1)仏教徒活動家による改宗、一般の仏教徒による改宗、「改宗キリスト教徒」による改宗の間にある差異と類似点、(2)仏教への改宗運動の中心地で生きる仏教徒がキリスト教へ改宗する理由と日常的な宗教実践、(3)一般の仏教徒が神の視点に立つことで創出する宗教間対立を逃れる場のあり方、(4) 近郊農村における仏教徒組織の取り組みの概要が明らかとなった。今後は2年間の研究成果を取りまとめ、学術誌(『文化人類学』や『南アジア研究』など)や学会(文化人類学会や南アジア学会など)で研究成果を発表する予定である。
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