研究課題/領域番号 |
24710287
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
竹田 敏之 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (40588894)
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キーワード | アラビア語 / アラブ世界 / アラブ諸国 / イスラーム復興 / モーリタニア / 伝統教育 / 言語アカデミー / 新語 |
研究概要 |
平成25年度は、研究計画にそって次の5項目にわたる研究活動を行った。 1.現代アラブ世界におけるアラビア語文法教育の展開と実態について、モーリタニアを対象に前年度実施した「マフダラ教育(クルアーン学校)」に関する臨地調査の成果を論考としてまとめ、研究成果の一部として『イスラーム世界研究』に発表した。 2.これまでに収集したアラブ諸国の文法書および印刷物を分析対象とし、正書法の現代的変容とハムザの書き方に関するアラビア語アカデミーの影響について考察を進め、その成果を日本中東学会年次大会にて発表した。 3.これまでの言語データの分析結果および上記2の成果を応用し、日本におけるアラビア語学習者に適した例文の生成および正書法規則(とくにハムザの書き方に関するルール)について考察・検討を行い、その成果を盛り込む形で文法書『アラビア語表現とことんトレーニング』を完成させ、刊行した。 4.アラブ諸国における現代アラビア語の変容について、今年度は湾岸諸国を対象に臨地調査を行った。具体的には、クウェートにあるアラブ連盟付属の「医学アラビア語化センター(ACMLS)」を対象に、その活動実態に関する調査と同機関が刊行する機関誌および専門用語辞典の収集を行った。また、『クウェート方言辞典』の著者であるハーリド・ラシード氏をカウンターパートに湾岸諸国におけるアラビア語の変容と新語生成のメカニズムに関する聞き取り調査を実施した。 5.上記4.に関連して、オマーンのマスカトで行われた国際ブックフェアーを対象に、現代アラビア語の変容に関する出版状況の調査と関連文献の収集を行った。とくにイエメンの民主化運動に関連した文献・印刷物、および湾岸諸国の言語文化・社会に関する文献を中心に収集し、新語データ抽出のための新たな分析資料とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
達成度について、以下の3つの点から順調な進展と自己評価した。 1.昨年度の臨地調査で入手した現地資料の解析により、現代アラビア語の用例データの集積が順調に進み、また正書法の諸規則を日本人学習者に分かりやすい形で再整理および再構築することに成功し、文法書の刊行へとつながった。 2.湾岸地域における臨地調査の実施により、アラブ諸国のアラビア語研究機関(オマーン文化遺産省、クウェートACMLS、、バーブティーン図書館)およびイスラーム研究機関(クウェート宗教省、イスラーム復興協会)との学術交流が推進され、同地域における最新の研究動向が把握でき、前年度の成果を発展させる形で、さらに海外研究者との人的ネットワーク構築を進展させることができた。 3.研究目的の第3に掲げていた「イスラーム復興の流れにともなう伝統的アラビア語学習の普及とその実態解明」について、当初予定していたイエメンでの調査を、同国の治安悪化から調査地をモーリタニアへと変更したことが、研究全体の進展にも大きくプラスに作用した。なぜなら、モーリタニアにおける伝統教育の実態を分析・考察することで、同地域から輩出されるイスラーム知識人(シンキーティー知識人)の存在が明らかになり、ひいては東アラブ地域(とくにクウェートなどの湾岸諸国)における伝統的アラビア語学の普及の過程を解明するためには、同知識人の広域的活動の実態とその役割を跡付ける作業が不可欠であるとの見解に達することができたからである。本年度発表した論考を基礎に、湾岸地域における「シンキーティー知識人の役割」という新たな視点を加えることで、アラビア語の変容を主要テーマとする本研究の展開に明確な筋道を立てることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は本研究課題の最終年度として、以下の3点を軸に研究を遂行する。 1.現代アラビア語に関する新たな表現形態の抽出と新語に関するデータ集積の成果として、上級者向けの高度なアラビア語文法レファレンスの刊行を目指す。 2.エジプト、シリア地域、マグリブ地域、湾岸諸国の4地域における現代アラビア語の地域偏差に留意しながら、専門用語(とくに医学および生命倫理に関する用語)の地域差について検討を進め、日本語・アラビア語によるハイブリット方式の専門用語辞典の入力から編集作業の段階に入る。 3.アラブ諸国における伝統文法教育の変容と展開について、当初予定していた調査地のイエメンおよびパレスチナの治安状況の悪化に鑑み、変更後のモーリタニアを対象に調査を継続する。その際、モーリタニアとの知識人ネットワークとして歴史的にも関係の深いエジプト、およびスーダンにおけるアラビア語教育の実態に関する調査も視野に入れながら研究を発展させていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
臨地調査における日程変更(ビザの発給状況にともないフライトの変更が必要となった)のため生じた概算からの戻入額である。 現代アラビア語の変容に関する言語データの構築と分析に必要な文献資料の購入(書籍代)として使用予定である。
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