研究課題/領域番号 |
24710292
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部, 准教授 (30348841)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 未承認国家 / 国際情報交換 / アメリカ合衆国 / 南コーカサス / 旧ユーゴスラヴィア |
研究概要 |
国際政治学は、国民国家を中心とする見方を基にして成立してきたが、近年、その立場に限界が生じたのは明らかであり、本研究では新しい国家像や国家承認のあり方を検討するために、欧州地域の未承認国家を多面的に比較検討することにより、世界を不安定化しうる未承認国家問題(非承認国家と称する場合もあるが、本研究では未承認国家とする)の現状を明らかにすると共に、その事例から、ポスト・ウエストファリア体制時代の国家像を模索し、新たな国際政治の理論を構築することを目的としている。 本研究は、文献調査と現地調査を主軸として進めているが、平成24年度には、文献調査と並行して、キプロス、イスラエル、グルジアで現地調査を行った(イスラエル、グルジアの調査は別資金による)。当初、キプロス、イスラエルの調査は平成25年度に予定していたが、アゼルバイジャン、アルメニアと入れ替える形で、先に行った。 これらの現地調査から得られた示唆は大変有益で、新しい論点を研究に織り込んでいくことになった。それは未承認国家及びその周辺が、大国に利用されており、そのために未承認国家の存在があえて黙認されているのではないかという視点である。特に、キプロス危機で明らかになったように、未承認国家を抱える国は、闇経済の温床になったり、旧ソ連の未承認国家の事例で明らかなように、麻薬や武器、人身売買の拠点や輸送路になったりしている。さらに、未承認国家やその周辺には、大国が「治外法権」を主張できる軍基地を構えている例が極めて多いのである。この視点については、今後、検証を重ねる。 なお、途中で、研究に新しい方向性が見えてきたため、予定していた書籍の執筆は行えなかったが、英語論文2本(内1本は投稿準備中)、日本語論文、エッセーなど多数の執筆をした。平成25年には精力的に研究成果発表をしていく予定であり、それらに平成24年度の蓄積を活かしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のとおり、平成24年度は、当初の研究計画と照らし、現地調査の順番の入れ替わりがあっただけでなく、予定していたアメリカスラブ学会(The Association for Slavic, East European, and Eurasian Studies (ASEEES))での発表ができなくなった他、アゼルバイジャンの現代政治と紛争についての書籍の執筆もできなかった。 しかし、現地調査の順番を入れ替えたことにより、早期に重要な論点を見出すことができ、むしろそれは研究内容を充実させるうえで、非常に良い結果につながったと考えている。また、アメリカスラブ学会での発表は、平成25年度には確実に行えることになっているので、平成24年に進めた研究と併せ、より深い研究報告を行う所存である。加えて、書籍の執筆ができなかった一方、英文雑誌(『Central Asian Survey』誌を第一候補に考えている)への投稿に向けて最終の準備を進めている者を含む英語論文2本、日本語論文、書籍の共同執筆や一般向けのエッセーや報告書なども多数執筆できた。これらのことから、成果発表も十分できたと考えている。 そのため、昨年度の研究の進捗状況は、確かに当初の研究計画とのずれがあるとはいえ、研究を遂行していく上でのプロセスに位置づければ、まず順調に進展していると評価できるだろう。特に、新しい論点を発見できたことは、研究計画策定時には想定していなかった良い展開である。研究計画をきちんと遂行していくことも重要であるが、より良い研究成果を出すために、状況次第で、研究計画を柔軟に見直し、最終的により良い成果が出せるように努力していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は米国・コロンビア大学のハリマン研究所(The Harriman Institute, Columbia University)を拠点に研究を行う。同研究所は、米国で最も古い旧ソ連・東欧の研究所であり、本研究が比較対象としている旧ソ連・東欧圏の世界的に著名な研究者が揃っている。そのため、その研究者たちと議論をしたり、アドバイスをしてもらったりすると共に、現地の人的・資料的リソースなども紹介してもらい、効率的に研究を進めたい。 また、コロンビア大学は優れた資料や書籍を多数揃えているだけでなく、米国東海岸の有名諸大学との資料の相互使用のネットワークがあり、非常に恵まれた資料環境にある。そのため、今年度は資料収集も集中的に行い、今後の研究の重要な基礎固めを行う予定だ。 加えて、2013年秋には、アゼルバイジャンで現地調査を行う予定である。旧ソ連の未承認国家問題では、ロシアの政策が極めて強く作用するが、最近、ロシアとアゼルバイジャンの関係に変化が出ており、その影響に特に注目して調査する。 さらに、米国の国連代表部や国際組織、各国の大使館などで、本研究に関する問題を実際に実務で担当された方や関係国の外交官などにインタビューし、それぞれの立場や経験、意見などを確認したい。さらに、コロンビア大学以外の米国内の研究者との議論も幅広く行う予定である。 これらの調査と並行して、2013年4月のThe Association for the Study of Nationalities (ASN)でのパネルの組織、11月のアメリカスラブ学会での研究報告(プロポーザルは採択済みで、発表確定)、ハリマン研究所での研究発表(時期未定)、ならびに英語・日本語での論文、日本語の書籍の執筆も行い、研究の成果発表も着実に進めつつ、それらに対し、様々な意見、批判を得て、研究を逐次改善していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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