研究課題/領域番号 |
24710292
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部, 准教授 (30348841)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 未承認国家 / クリミア / ノヴォロシア / ハイブリッド戦争 / 国家性 / 国家承認 |
研究実績の概要 |
2014年は奇しくも国家に関する問題が多々起きた。ロシアのクリミア編入問題およびウクライナ東部のノヴォロシアとしての独立を目指す動きと内戦・不安定な停戦に加え、ISIS(ISIL・イスラム国)の台頭、スコットランドでの独立を問う住民投票、香港での民主化運動など、改めて、国家性の本質が問われ、そこにおける国際法の重要性と無力さが際立つこととなった。特に、多くの問題を提起したウクライナ危機は未承認国家問題との類似性が目立ち、実際は間違いであるがISISを未承認国家だと誤認した向きも少なくなかった。 そのため、本研究の重要性、意義が研究のプロセスの中でさらに増していくと同時に、課題も増え、非常に刺激的な環境のなかで研究を進めることができた。未承認国家を導くプロセスとしてハイブリッド戦争も新たな研究課題となった。 本研究は文献研究が主たる部分を占めるが、8月にはウクライナでの現地調査を行い、本課題の事例研究として非常に重要な示唆を多く得た。本研究に関する学会報告や多くの論文を日本や米国で発表したが、特に重要だと思われる仕事のみ列挙する。まず、ロシアのクリミア編入と未承認国家の類似性と法的問題についての論文、ナゴルノ・カラバフ問題についての共著論文(英語)、ハイブリッド戦争について論考などである。そして特筆すべきは8月に出版した『未承認国家と覇権なき世界』であり、同書は大きな反響を呼び、新聞や雑誌などで多く取り上げられ、多数のインタビューを受けた。未承認国家問題は、領土問題と表裏一体の問題であるが、未承認国家問題は筆者により日本でもにわかに注目されるようになった。 このように、本研究は極めて興味深い成果を多々出すことができたが、その一方で、国際情勢の変動もあり、新たな課題が次々と生まれてきた。来年度は最終年度となるが、そのため、筆者は本課題を継続して進めていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度は当初の研究計画で予定していたロシア、フランス、米国、EU・NATOの本部があるベルギー、OSCEの本部があるオーストリアでの調査のうち、米国での調査しかできなかったが、それは、国際情勢の変化、すなわちウクライナ危機の深刻化とそれによる欧米・ロシアの関係悪化とロシアの周辺国の新たな懸念材料という新たに重要になった課題に研究の優先順位を置いたためであり、決してネガティブな変更ではない。実際、新たな視点で様々な調査対象を加え、米国に加え、ウクライナ、エストニアで調査をすることにより極めて重要な研究成果を得ることができた。特に、ウクライナとエストニアで得られた成果は極めて貴重であり、本研究の中で大きな位置付けとなった。これは最初の時点では想定していなかった研究内容でありながら、実質的に本研究課題の進展を大いに促進したと考えられる。 また、当初の計画からは遅れていた未承認国家問題に関するNHK出版からの単著も、8月に『未承認国家と覇権なき世界』というタイトルで出版することができ、2014年の国際情勢の変化を読み解く鍵だとして、大きな反響を呼ぶことができた。アゼルバイジャンに関する単著もすでに脱稿しており、2015年5月に出版予定となっている。 つまり、前年度までにやっておくべきであった出版計画を、ウクライナ問題という新たな要素も含めるかたちで達成した上に、本来、想定していなかった問題を含めたより包括的かつ効果的に扱うことができたので、結果的に当初の計画以上に充実した研究成果を残せた。 そのため、2014年度の研究計画に変更があったといっても、これまでの遅れを取り戻した上に、さらに新たな研究を蓄積したことで、トータルで考えれば研究はかなり順調に進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、2014年度の方針と同じように、当初の計画に忠実に従って研究をするよりも、むしろ、状況の変化に応じた形で、柔軟に研究計画を変更しながら研究を進めていきたいと思っている。現在進行形の問題は、アプローチが難しい一方、極めて新規的なだけでなく、政策立案にも示唆を与えることができ、その意義は極めて大きいと考える。特に、現在のアナーキーな世界の帰結は、ウクライナ危機が集結した時の世界像だという言説もある中、今後の国家像を模索する上で、ウクライナ問題の趨勢を分析することは非常に重要な意味を持つのではないだろうか。 同時に、国家の維持、国家を揺り動かすものとして、最も重要なファクターが戦争であるが、2014年に顕著に見られるようになり、注目を浴びている21世紀の戦争、いわゆる「ハイブリッド戦争」に注目し、ハイブリッド戦争と新しいタイプの国家ないしそれに準じるものの成立の関係を明らかにしたい。本問題は、ウクライナ危機のみならず、ISIS(イスラーム国家)の台頭でもクローズアップされており、当初、本研究は欧州の辺境を研究対象にしていたが、本問題を明らかにすることにより、アラブ中東地域をはじめとした世界のあらゆる地域の不安定状況、国家の揺らぎなどを解明する手がかりを与えられると考える。 他方、本研究の研究期間は残り1年であり、今後1年以内で、一応の研究のまとめを行う必要があるため、上記のように最近生じた課題を明らかにしつつ、当初の計画に沿う形での研究も進めていく。つまり、本研究を総括するにあたり、不足している点を文献調査や現地調査などで補いながら、論考をまとめていく。国際学会報告や論文の発表の計画はすでにいくつかあり、それらの発表をしながら、研究をブラッシュアップしていきたい。そして、最終的には本研究の集大成を一冊の本にできるよう準備を進める。
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備考 |
新聞およびインターネットでの連載、多数の講演に加え、テレビ、ラジオなどでの情報発信も常に行っている。
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