本研究では、東アジア地域における開発と領土の問題をめぐる諸相について、国民政府期の西北開発と領土認識の関係性に着目し、歴史的視座のもとで解明することを目的とする。本年度は最終年度となるため、前年度の調査結果を踏まえ論文作成など研究成果のまとめに専念した。 ①昨年度、中国重慶で報告を行った日中戦争期における国民党の辺疆政策について論文にまとめ「戦時国民党政権の辺疆開発政策」として発表した。そこでは、日中戦争期における蒋介石の中央政府が行った辺疆開発政策の独自性と「辺疆」地域へ移民する人々との関係と実態を明らかにした。 ②「南京国民政府期国民党政権の辺疆政策-晋綏系 軍事勢力者による「分区自治」方案の実施過程を中心に-」を論文として発表し、戦時内モンゴルにおける国民党のモンゴル人統治の基盤が戦前に確立されたことを、国民党政権内部における「中央-地方」関係の変容から明らかにした。 ③昨年度行ったフィールドワークの結果は、“南京国民政府時期内蒙古後套地区的開発-関於移 民開墾事業與学術界的合作-”(南京国民政府時期における内モンゴル後套地域の開発―移民開墾事業と学術界の合作)において、日中戦争開始前における内モンゴルへの漢人移民の特質として、清代からの連続性があることを明らかにし、また日中戦争期における独自性も見出した。 以上の考察から、内モンゴルの内地化にみられる国民政府期の辺疆開発と領土認識の関係について以下の3点が明らかとなった。すなわち①中央政府の「辺疆」開発政策における資源開発の重要性、②内モンゴル地域の地方政治における漢人による統治システムの確立、③現地社会における移民開墾への学術の関与と内地からの漢人移民の歴史的連続性、である。
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