研究課題/領域番号 |
24710297
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
田中 周 早稲田大学, アジア研究機構, 助手 (10579072)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ウイグル / 新疆 / 中国 / 民族問題 / 歴史認識 / 国家統合 / 中国共産党 / 国際情報交換 |
研究概要 |
本研究の目的は、中国新疆ウイグル自治区の民族問題を、歴史認識の面から検証することである。なぜウイグル族と漢族との間で衝突が生じるのか。この問いに答えるために、現代中国においてウイグル族の歴史が、体制側と少数民族側でそれぞれどのように語られてきたかを考察し、この二つの「歴史」の相克を軸に、新疆の民族問題を捉え直す。 初年度にあたる平成24年度は、主に、体制側によって語られるウイグル族の歴史がいかに変遷してきたかを、文献調査および現地調査によって考察した。加えて、ウイグル族によって語られるウイグル史に関する調査を、現地調査を中心に行った。文献資料は、中国語とウイグル語の資料を中国および日本で購入した。現地調査は、2013年3月3日から3月13日にかけて、中国新疆ウイグル自治区のウルムチ市とイーニン市で実施した。両市では歴史的な旧跡を訪問し、歴史事件や歴史人物の顕彰方法を検証した。また新疆史に重要な足跡を残した歴史人物の子孫や研究者を訪問し、インタビュー調査を行った。以上で収集した文献、インタビュー内容を元に、資料分析、ナラティブ分析を行った。 結果として、民国期(20世紀前半)、中華人民共和国建国初期(50年代)、改革開放期以降(80年代以降)と時代が進むにつれて、体制側によるウイグル史が、漢族中心の歴史観に移行していく様を確認した。また、24年度の現地調査では複数の新たな人脈を開拓し、25年度に本格的に実施する、ウイグル族自身の歴史認識に関する調査の基盤作りができた。 最後に、以上の研究成果の一部は、次の出版物に反映した。①中国ムスリム研究会編『中国のムスリムを知るための60章』明石書店、2012年。②田中周「民族名称「ウイグル」出現と採用」-「回」から「維吾爾」へ」鈴木隆・田中周編『転換期中国の政治と社会集団』国際書院、近刊(発行確定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にあたる平成24年度は、特に、体制側によって語られるウイグル族の歴史がいかに変遷してきたかを考察することを目的としていた。この研究目的遂行のために課したタスクは、①「収集」、②「研究」、③「発信」の三つであった。 ①「収集」では、中国で現地調査を行い、体制側のナショナル・ヒストリーおよびウイグル族によって著された歴史文献(二次研究文献も含む)の収集、関係者へのインタビュー調査の実施を予定していたが、これは2013年3月に新疆で行った現地調査で達成した。次に②「研究」では、収集した文献、インタビュー内容を元に、資料分析、ナラティブ分析を行うことを予定していた。一年間の研究活動を通じで、20世紀以降の民国期から現代に至るまで、体制側によるウイグル史が、漢族中心の歴史観に移行してきたという、大きな動態を確認できたことは第一の成果であった。これが当初の研究目的がほぼ達せられたと考える理由である。また、特に現地調査の場で、新たな人脈を開拓し、次年度以降の調査研究の足固めができたことも大きな成果であった。 ただし不満も残った。最後のタスクである③「発信」に関して、二つの図書を出版刊行できたことは大きな成果であった(共に申請者が編者で、一つは既刊で一つは近刊)。しかし、いずれも24年度の研究成果を随所に反映した業績であるが、本研究課題を真正面から扱った論稿ではない。当初、体制側が語るウイグル史の変遷に関する単体の論文発表を予定していたが、これは平成25年度の課題とする。また同じく「発信」において、専用ホームページの開設により、本研究の取り組みを公開し、社会への成果還元に努めることを24年度の予定としていた。開設予定時期が2013年6月にずれ込んだことが反省される。 以上、若干の遅れは存在するが、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる平成25年度は特に、1980年代以降のウイグル族によるウイグル史の再構築について考察する。新疆では改革開放以降、文革期に抑圧されていた少数民族文化の復興が政府によって促進され、ウイグル族知識人たちの主導の下で自民族の歴史を発掘し、再構築するための様々な活動が展開された。歴史家や作家らによるウイグル民族史を題材とした作品の生産はその代表例である。これら知識人の活動の背景には、新疆への漢族の大量流入、漢語化が進む現状によって、民族アイデンティティが喪失してしまうのではないかという危機意識があると考えられる。このように、80年代以降のウイグル史の再構築が、ウイグル族知識人たちのいかなる意識と意図の下に進行したかを主にインタビュー調査を用いて分析する。具体的には以下の3つのタスクによって、研究を推進する。 ①「収集」:中国およびカザフスタンで、文献調査、インタビュー調査を実施する。訪問先は、中国ではウルムチ市、イーニン市、カザフスタンではアルマトイ市である。具体的な用務先は、新疆ウイグル自治区地方志編纂委員会、新疆人民出版社、新華書店、カザフスタン共和国教育科学省東洋学研究所、古書店などを予定する。カザフスタンに赴く理由は、亡命ウイグル人によるコミュニティーが存在し、彼らによって中国国内とは異なる自由な言論活動が行われ、歴史に関する文献の出版活動も盛んなためである。また前年度に引き続き、国内でも文献収集を継続する。 ②「研究」:収集した文献、インタビュー内容を元に、資料分析、ナラティブ分析を行う。収集した情報の整理のため、学生アルバイトの協力を得る。また研究会を開催し、研究成果の途中報告を行う。 ③「発信」:ホームページを運営し、研究成果の社会への還元に努める。また、ウイグル族知識人たちの意識と動向に関する論文を発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の未使用額は、21万1297円であった。未使用金が発生した理由は、一つは海外出張費に関して、申請者の所属先である早稲田大学アジア研究機構現代中国研究所より、特別の補助金(出張費の一部負担)が出たためである。もう一つの理由は、ホームページ開設が平成25年度にずれ込んだため、ホームページの作成費用の支払いも25年度となったためである。平成24年度未使用額を加えた、平成25年度の研究予算(直接経費)は、合計で「111万1297円」となる。以下の研究費の使用計画を示す。 ①文献購入費:「中国史、ウイグル史に関する歴史文献および二次研究資料(中国語)購入費」(150冊×1,000円)および、「中国史、ウイグル史に関する歴史文献および二次研究資料(ウイグル語)購入費」(150冊×1,000円)として、「30万円」を予定する。②専用ホームページの開設、年間運営費として「12万円」を予定する。③中国およびカザフスタンで実施する現地調査のための外国旅費として「50万円」を予定する。④海外現地調査で実施するインタビューでの協力者への謝金(20人×千円)として、「2万円」を予定する。⑤インタビューなどで得られたデータ整理などを行うバイトの謝金として(1人、20時間)、「4万円」を予定する。⑥国内の研究調査旅費として「5万円」を予定する。⑦消耗品費(保存用HD、CD-ROM、プリンタインクカートリッジ、ソフトウェア、文具、コピー用紙の購入)、およびその他雑費(文献複写代、製本代、資料運搬費)として「8万円」を予定する。 以上の合計額は「111万円」で、この研究費使用計画により、平成25年度の研究を遂行する。
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