本研究は、南アフリカの代表的な農産物加工産業であるワイン産業と砂糖産業を事例に、民主化後の南アフリカにおいて農産物加工産業に黒人生産者がどの程度、どのような形態で参入しているのかを明らかにすることを目的としている。最終年度にあたる平成26年度には、南アフリカにおける砂糖産業の中心地であるクワズールー・ナタール州において、2000年代半ばに土地改革を通じて黒人がサトウキビ農場を取得したのち、異なる軌跡をたどった3事例について調査を実施した。 事例(1)ではサトウキビ生産が立ち行かなくなったのち、NGOと政府から追加資金の援助を受けて野菜が栽培されるようになり、農場の生産的利用が継続されることになった。事例(2)もサトウキビ生産に失敗し、その後、農場自体が放棄されて、農場は近隣住民が無料で家畜を放牧する場となった。サトウキビ生産を継続しているという点で唯一の成功事例とみなされる事例(3)は、土地改革を通じて13農場が1つの経営体に統合され、規模の経済が実現されたことに加えて、サトウキビを出荷する製糖工場から輸送費の補助と運用資金の借り入れができたことが、経営の安定化につながった。砂糖産業においては、サトウキビ生産者と製糖工場の相互依存関係がしばしば指摘されるが、事例(3)に支援を提供した製糖工場はBEE取引を通じてクワズールー・ナタール州の著名な黒人ビジネスマンに売却されており、サトウキビ生産を行う農場のみならず、製糖部門を中心とする砂糖産業のバリューチェーン全体への黒人の進出が実現されない限り、農産物加工産業の変革は困難であることが明らかになった。
|