研究課題/領域番号 |
24710303
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡部 克哉 早稲田大学, 総合研究機構, 招聘研究員 (60578475)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 社会事業 / ジェンダー / 言説 / 福祉社会学 / 社会福祉学 / 思想 / 歴史 |
研究概要 |
本年度は,社会事業研究者の文献を収集,整理し,女性運動との関係を踏まえたうえで,言説を分析した。特に,当時の代表的な社会事業研究者であり,社会事業と女性について多くの発言を行った,生江孝之,海野幸徳,田子一民の3人に焦点を当てた。 早稲田大学図書館や国会図書館が所蔵する図書や,社会事業雑誌や婦人雑誌などに掲載された論文などの閲覧や複写を行った。田子一民・静江夫妻が創刊した雑誌『第一線』については,金光図書館(岡山県金光市)で写真撮影を行った。そのほか,近代デジタルライブラリーなどのインターネットデータベースも活用した。 本研究と関連して,早稲田大学特定課題研究費助成費の研究成果として,研究ノート「両大戦間期における社会事業とジェンダー:『母性』との関係をめぐって」をまとめた。「母性」という概念を手がかりとして,両大戦間期日本における社会事業とジェンダーの関係を検討した。 この研究ノートでは,生江や海野,田子などの論文についても取り上げた。「母性」や「女らしさ」を持ち出すことで,女性が社会事業に進出することが求められた一方,社会事業と「母性」の結び付きが強まることによって,社会事業における性別役割分業にもつながったと論じた。この研究ノートも踏まえつつ,今後は言説をより詳細に分析する予定である。 なお,財団法人生協総合研究所の生協総研賞「助成事業」の研究成果として,論文「婦人方面委員と家庭における消費:消費組合運動および生活改善運動との関係から」を執筆した。この論文では,奥むめおと平塚らいてうに焦点を当て,家庭における消費に関する議論を通じて,女性と消費組合運動の関係を検討した。この論文のなかで,わずかではあるが,田子一民の女性方面委員に関する発言について触れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
財団法人生協総合研究所の生協総研賞「助成事業」の研究成果として,論文「婦人方面委員と家庭における消費:消費組合運動および生活改善運動との関係から」を執筆した。また,2013年2月15日に千代田区立日比谷図書文化館でこの研究成果の発表を行った。 この論文の執筆および発表の準備に想定した以上に時間が取られたため,現在までの「研究の目的」の達成度はやや遅れている。しかし,この論文では,田子をはじめとした,女性方面委員とジェンダーの関係についての言説について検討することができた。また,早稲田大学特定課題研究費助成費の研究成果として,研究ノート「両大戦間期における社会事業とジェンダー:『母性』との関係をめぐって」をまとめ,生江や海野,田子などの論文についても取り上げた。 これらの研究成果は,本研究とも密接に関わるものであり,本研究を進めるにあたって重要な示唆を得ることができた。今後は,これらの研究成果も踏まえつつ,言説をより詳細に分析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
1919年~1930年代前半を中心に,社会事業とジェンダーに関する言説を分析する。社会福祉とジェンダーの関係性が形成される過程において,どのような論理や思想が用いられ,意味づけられたかを検討することになる。そのため,資料を網羅的に収集,整理することが極めて重要となる。平成25年度は女性運動家,平成26年度は第一次世界大戦以前の言説との比較を通じて,社会事業従事者として女性の進出を求める言説が増加した理由を解明する。 平成25年度は,女性運動家による文献を収集,整理し,女性運動家が社会事業をどのように捉え,女性の進出を求めていたかについて言説を検討する。特に,社会事業と女性について多くの発言を行った,山田わかと岩崎盈子に注目する。また,一民の妻である田子静江についても重点的に調査し,夫である一民の社会事業観や女性観に与えた影響についても解明する。 平成26年度は,第一次世界大戦以前の言説との比較から,社会事業とジェンダーに関する言説の変容を検証する。小河滋次郎や留岡幸助といった社会事業研究者,巌本善治が創刊した『女学雑誌』など,第一次世界大戦以前の言説との比較を通じ,言説の変容過程を分析する。また日本の議論に影響を与えたと考えられるドイツのアリス・ザロモンや米国のジェーン・アダムズといった女性社会事業家の思想的受容についても考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,女性運動家の文献を収集,整理し,社会事業との関係を踏まえたうえで,言説を分析する。特に,社会事業と女性について多くの発言を行った,山田わかと岩崎盈子に注目する。また,一民の妻である田子静江についても重点的に調査する。 ① 山田わか 山田嘉吉・わか夫妻が創刊した『婦人と新社会』(復刻版あり)を調査する。また,山田が関わった母性保護運動や婦選運動に関する資料は市川房枝記念会図書室やかながわ女性センター「山川菊栄文庫」などにあり,調査を行う。 ② 岩崎盈子 大阪府社会課に勤めていたことから,大阪府立公文書館の大阪府社会課関係の資料を調査する。また,大阪府立中央図書館には大原社会問題研究所が戦前大阪にあった頃の蔵書が保存されている。そのため,大阪において,社会事業に関する資料の調査,収集を行う。 ③ 田子静江 田子一民・静江夫妻が創刊した『第一線』のほか,田子は単行本のほか婦人雑誌に多くの論文を執筆している。夫である一民の社会事業観や女性観との共通点および相違点について検証し,相互に与えた影響について検討する。
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