研究課題/領域番号 |
24710303
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
渡部 克哉 早稲田大学, 総合研究機構, 招聘研究員 (60578475)
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キーワード | ジェンダー / 社会事業 / 言説 / 女性運動 / 消費組合 / 思想 / 歴史 / 社会福祉 |
研究概要 |
本年度(平成25年度)は,女性運動家の文献を収集,整理し,社会事業との関係を踏まえたうえで,言説を分析した。特に,社会事業と女性について多くの発言を行った岩崎盈子,山田わかに注目した。また,前年度(平成24年度)から引き続き,生江孝之,海野幸徳,田子一民などの社会事業研究者の文献も収集,整理し,言説を分析した。 研究の途中経過について,早稲田大学ジェンダー研究所の2013年度第2回研究会(2013年12月7日)において「戦間期日本の社会事業とジェンダー」と題し,報告を行った。この報告では,前年度の研究ノート「両大戦間期における社会事業とジェンダー:『母性』との関係をめぐって」(『社学研論集』20,2012年)を踏まえたうえで,生江が「母性」と社会事業を結びつけ,海野が社会事業の性別役割分業を主張したのに対し,岩崎が「母性」と社会事業の結びつきを批判し,社会事業のあらゆる分野に女性が進出することを求めたことを対比的に論じた。 また,前年度に財団法人生協総合研究所の生協総研賞「助成事業」にもとづき,女性と消費組合運動(生協運動)との関係に関する研究も行ったことから,本年度は消費組合運動で中心的な役割を果たした賀川豊彦に関しても調査を行った。賀川は,消費組合運動のみならず,社会事業や女性運動とも関わりが深く,本研究を進めるうえで重要な人物である。 論文「女性運動の始まりと生協」(『まちと暮らし研究』18,2013年)では,女性運動家である平塚らいてうおよび奥むめおと消費組合運動との関わりについて論じたほか,平塚や奥が女性の地位の向上,権利獲得を目指して設立した新婦人協会に賀川が支援を行ったことや,賀川が社会事業に取り組んでいた神戸の貧民街を平塚が訪れたことを取り上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度(平成24年度),財団法人生協総合研究所の生協総研賞「助成事業」の研究成果として,論文「婦人方面委員と家庭における消費:消費組合運動および生活改善運動との関係から」を執筆した。また,2013年2月15日に千代田区立日比谷図書文化館でこの研究成果の発表を行った。 この論文の執筆および発表の準備に想定した以上に時間が取られたため,本年度(平成25年度)も社会事業研究者の文献の収集,整理,言説分析も前年度から引き続き行うことになった。また,本年度から新たに,社会事業や女性運動とも関わりが深かった賀川豊彦についても調査を行った。そのため,女性運動家の文献の収集,整理,言説分析を十分に行うことが必ずしもできず,「現在までの達成度」はやや遅れている。 しかし,社会事業研究者の言説は,女性運動家の言説と密接に関係するものであり,本年度に女性運動家の文献を収集,整理し,言説を分析するうえでも,参考になるものであった。次年度(平成26年度)においても,社会事業研究者および女性運動家の文献の収集,整理,言説分析を引き続き行いながら,第一次世界大戦以前の言説との比較や欧米の社会事業研究者の思想的受容を通じて,社会事業とジェンダーに関する言説の変容を検証する予定である。 次年度に研究する予定である小河滋次郎や留岡幸助といった社会事業研究者の言説や,ドイツの社会事業研究者であるアリス・ザロモンの思想的受容に関しては,論文「社会事業における女性の役割:小河滋次郎を通じて」(『社学研論集』18,2011年)および研究ノート「両大戦間期における社会事業とジェンダー:『母性』との関係をめぐって」(『社学研論集』20,2012年)において,ある程度既に論じている。そのため,「現在までの達成度」はやや遅れているとはいえ,遅れを取り戻せることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
両大戦間期にあたる1919年~1930年代前半を中心に,社会事業とジェンダーに関する言説を分析する。社会福祉とジェンダーの関係性が形成される過程において,どのような論理や思想が用いられ,意味づけられたかを検討することになる。平成26年度は,第一次世界大戦以前の言説との比較や欧米の社会事業研究者の思想的受容を通じて,社会事業とジェンダーに関する言説の変容を検証する予定である。 平成24年度,平成25年度から引き続き,社会事業研究者および女性運動家の文献の収集,整理,言説分析を並行して行いながら,社会事業研究者の女性観および女性運動家の社会事業観を解明したうえで,1918年以前の言説との相違点を明らかにし,なぜ1919年~1930年代前半にかけて社会事業への女性の進出を求める言説が増加したのかについて考察する。 具体的には,小河滋次郎や留岡幸助といった社会事業研究者,巌本善治が創刊した『女学雑誌』など,第一次世界大戦以前の言説との比較を通じ,言説の変容過程を分析する。また日本の議論に影響を与えたと考えられるドイツのアリス・ザロモンや米国のジェーン・アダムズといった女性社会事業研究者の思想的受容についても考察する。 平成26年度に研究する予定である小河滋次郎や留岡幸助といった社会事業研究者の言説や,ドイツの社会事業研究者であるアリス・ザロモンの思想的受容に関しては,論文「社会事業における女性の役割:小河滋次郎を通じて」(『社学研論集』18,2011年)および研究ノート「両大戦間期における社会事業とジェンダー:『母性』との関係をめぐって」(『社学研論集』20,2012年)において,ある程度既に論じている。そのため,研究の進捗状況はやや遅れているが,平成26年度の研究を計画通りに推進することができると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度(平成24年度)、財団法人生協総合研究所の生協総研賞「助成事業」の研究成果として,論文「婦人方面委員と家庭における消費:消費組合運動および生活改善運動との関係から」を執筆した。また,2013年2月15日に千代田区立日比谷図書文化館でこの研究成果の発表を行った。 この論文の執筆および発表の準備に想定した以上に時間が取られたため,本年度(平成25年度)も社会事業研究者の文献の収集,整理,言説分析も前年度から引き続き行うことになった。また,本年度から新たに,社会事業や女性運動とも関わりが深かった賀川豊彦についても調査を行った。そのため,女性運動家の文献の収集,整理,言説分析を十分に行うことが必ずしもできず,次年度使用額が生じた。 次年度使用額については,平成24年度,平成25年度から引き続き行う社会事業研究者および女性運動家の文献の収集,整理,言説分析の遂行に充てる予定である。翌年度(平成26年度)は,戦間期の言説をより詳細に分析しながら,第一次世界大戦以前の言説との比較や欧米の社会事業研究者の思想的受容を通じて,社会事業とジェンダーに関する言説の変容を検証する予定である。そのため,社会事業とジェンダーに関する資料をより広範に収集することになる。 文献に関しては,国立国会図書館をはじめ,社会事業関係については日本社会事業大学図書館,女性問題関係についてはお茶の水図書館,市川房枝記念会図書室などに赴き,調査する予定である。特に,岩崎盈子に関しては,大阪府社会課に勤めていたことから,大阪において,社会事業に関する資料の調査,収集を行うことを計画している。
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